登記申請手続(各種)

設立登記申請後、登記完了前に行う変更登記の実務

設立申請後、登記完了前の変更登記申請

会社設立後、すぐに商号・本店・役員を変更するというケースは、通常の会社運営では多くありません。
しかし、M&Aや新設分割が関わる場合、設立日とクロージング日が同日であることも珍しくなく、設立登記の審査が終わる前に変更登記を出さざるを得ないという状況が現実的に生じます。

本稿では、設立直後に変更登記を行う際の可否・注意点・決議方法について、実務でつまずきやすいポイントを中心に整理します。

背景と実務上の位置づけ

新設分割により会社が成立した直後に株式を譲渡し、新株主体制で役員・本店所在地・商号等を変更する取引は、近年のM&Aでは一般的にみられます。
そのため、「設立登記の審査がまだ終わっていない段階」で「変更登記を申請する」必要性が現実的に発生します。

設立直後の変更登記は可能か

(1) 審査未了の状態でも申請は可能
設立登記の審査中で、登記記録がまだ調製されていない段階であっても、変更登記の申請自体は可能とされています。
この点は単なる株式会社設立だけでなく、新設分割による設立の場合も同様の扱いがされています。

(2) メモ書きの添付が望ましい理由
登記記録がまだ存在しない段階では、法務局側からは「存在しない会社の変更登記が提出された」ように見えてしまうことがあります。

そのため、
・当日すでに設立登記を申請している
・受付番号を把握している場合はその番号
などを「その他の申請書記載事項」に記載しておくと、事務が円滑に進むという実務上のメリットがあります。
なお、記載がなかったことで直ちに却下となる性質のものではありませんが、照会対応の手間を避ける意味でも、メモ書きを付しておくことが推奨されます。

(3) 類似事例の注意:管轄外本店移転との相違
設立直後の変更登記とは異なり、
・本店を管轄外へ移転し
・移転後すぐに変更登記を行い
・移転先の管轄で登記をする
というケースでは、移転先法務局に登記記録が未作成のため、却下事由に該当すると整理されています。
ここは実務上誤解が非常に多い部分で、設立直後のケースとは明確に区別が必要です。

決議方法で問題になりやすい点

(1) 招集手続の省略
設立当日または直後に株主総会・取締役会による変更決議を行う場合、通常の招集手続は実務上とることができません。

クロージングとの同時進行となることが多いため、
・役員の日程調整
・議長選任の実現可能性
などを事前に把握しておく必要があります。

(2) 書面決議の活用
招集手続が取りづらいことから、株主総会・取締役会を書面決議で行うことが現実的な選択肢となります。
特に、クロージングにより株主が入れ替わる場合、旧株主側役員を議長とする決議を前提とすると実務が破綻しやすいため、株主提案による書面決議を組み合わせることで円滑に処理される例が多く見られます。

(3) 旧役員が関与しない決議の場合の押印実務
旧役員が決議に参加しない場合、議事録に旧役員名義の代表印を押すことができません。

そのため、
・出席役員全員の実印押印
・印鑑証明書の添付
が必要となるケースがあります。
これは登記実務でよく誤解が生じるポイントで、クロージングの時間がタイトな案件ほど注意が必要です。

本コラムのまとめ

設立直後の変更登記は、一見イレギュラーな手続のようですが、M&A・新設分割におけるクロージングでは極めて一般的なプロセスです。
実務上の要点は次のとおりです。
・設立登記の審査中でも変更登記の申請は可能
・メモ書きを付することで円滑な処理につながる
・管轄外本店移転後の変更登記とは扱いが異なる(却下となることがある)
・招集手続は省略となることが多く、書面決議の選択が現実的
・旧役員が議事録に押印できない場合は、実印押印+印鑑証明書の添付が必要

手続きのご依頼・ご相談

本日は、設立登記申請後、登記完了前に行う変更登記の実務について解説しました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。

本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

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