目的上事業者とは何か?許認可事業を目的に掲げる会社の登記実務
目的上事業者
本稿では、「目的上事業者」という、登記実務の中でも地味ながら非常に判断に迷うテーマを扱います。
合併登記の際、消滅会社の事業目的に許認可を要する事業が含まれている場合には、
法務局から「その会社が実際にその事業を行っているかどうか」の証明を求められることがあります。
つまり、
・実際に事業を行っているなら「許認可証明書」
・実際には行っていないなら「事業を行っていないことの証明書(=目的上事業者であることの証明書)」
を添付しなければならないという運用です。
この「目的上事業者」制度は、特別法で許認可が必要とされる業種に適用されるものですが、
「事業目的に掲げているだけで実際には行っていない」会社が非常に多く、法務局側でも判断が難しい領域です。
今回の事例では、貨物運送業を営む会社の合併にあたり、
「第一種貨物運送事業はやっているが、第二種はやっていない」
という典型的なグレーケースに直面しました。
目的が「広すぎる」と登記が面倒になる
実際に事業を行っていない場合、事業目的は往々にして抽象的・包括的になりがちです。
「やるかどうか分からないが、将来のために広めに書いておこう」という発想から、
運送業・サービス業・コンサルティング業といった表現だけが並ぶケースも多く見られます。
しかし、許認可事業はそうはいきません。
主務官庁(国交省や経産省など)の審査を受けるため、目的文言の自由度は低く、
「この表現でなければ免許が下りない」という場合もあります。
たとえば、タクシー業であれば「一般乗用旅客自動車運送事業」、
貨物運送業であれば「第一種貨物利用運送事業」など、
明確に特定された用語で目的を記載する必要があります。
そのため、登記上の目的文言を見れば、ある程度は「実際に事業をしているかどうか」が分かるケースもありますが、
「やっていないのに目的だけが残っている会社」ほど、証明が面倒なのです。
「目的上事業者」に該当するかの判断例
今回のケースでは、合併に関わる消滅会社が次のような状況でした。
・「貨物運送事業」という目的を定めている
・実際には「第一種貨物運送事業」を営んでいる(=許可不要)
・「第二種貨物運送事業」は行っていない
ところが、目的の表現だけを見ても第一種か第二種か分からないため、
法務局としては「許可が必要な事業かもしれない」と判断せざるを得ません。
以前には、証明書を取る手間を避けるため、合併前に事業目的を削除(目的変更登記)してしまう対応をとったこともあります。
この場合、登記の順序は次のとおりです。
| 手続の流れ | 備考 |
|---|---|
| ① 消滅会社の目的変更登記 | 合併とは一括申請できない |
| ② 存続会社の吸収合併登記 | 目的変更後の証明書を添付 |
| ③ 消滅会社の解散登記 | 順次処理 |
| ※登録免許税 | 目的変更分3万円が別途必要 |
管轄が異なる場合は、目的変更登記を合併前に完了させ、その後の合併登記に添付する必要があります。
「証明書」ではなく「上申書」で足りるケースもある
今回の相談では、東京法務局の担当者から意外な回答がありました。
「実際に第二種貨物運送事業を行っていないことを記載した上申書を添付してもらえば足ります。」
どうやら同様のケースが複数あったようで、
東京法務局では実態に応じた柔軟な取扱い(簡易処理)を認めているようです。
つまり、次のような運用イメージです。
| 状況 | 添付書類 |
|---|---|
| 許可が必要な事業を明示している場合 | 許可証または「目的上事業者であることの証明書」 |
| 事業目的が曖昧で判断が難しい場合 | 上申書の提出で足りる(管轄局の判断による) |
この取扱いの背景には、
「目的上事業者であることの証明書を取得させるほどではないが、
念のため“やっていない旨”を明示してほしい」
という中間的な対応があるものと考えられます。
ただし、これはあくまで東京局内の運用であり、全国一律ではありません。
他の法務局では、証明書の提出を求められることもあります。
したがって、必ず事前に相談することが肝要です。
目的文言と実態のズレに注意
・事業目的が許認可事業に該当する場合、実際に行っているか否かで添付書類が変わる。
・実際に行っていないのに目的だけが残っていると、証明書または上申書の提出が必要になる。
・管轄法務局によって取扱いが異なるため、事前相談を徹底すること。
・目的文言が広すぎる会社は、将来の登記で思わぬ手間がかかる可能性があるため削除・変更等も検討。
「目的上事業者」の取扱いは、形式的なようでいて、実は登記実務と行政判断の境界線を示す象徴的なテーマです。
事前確認と目的文言の見直しこそ、最も確実な予防策といえるでしょう。
手続きのご依頼・ご相談
本日は、目的上事業者とは何か?許認可事業を目的に掲げる会社の登記実務について解説しました。
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