公開会社の有利発行で「株主総会議事録」は添付が要るのか?旧商法先例と会社法の決議機関の関係を整理
公開会社の有利発行の添付書類
本稿においては、公開会社の有利発行における添付書類と以下の4つの点を中心に解説いたします。
1.募集株式(・募集新株予約権)の基本フロー
2.会社法における公開会社の有利発行時の決議機関
3.旧商法先例(S30.6.25民甲1333)に基づく添付書類の取扱いと違和感
4.ストックオプション(募集新株予約権)にも及ぶ同一の論点
基本フローの確認(公開会社・平時の募集)
公開会社の募集株式発行(有利発行でない通常ケース)の原則的手順
1.取締役会で募集事項の決定
2.募集事項の通知
3.申込み
4.取締役会で割当決議
5.割当通知
6.払込み
7.払込期日到来(効力発生)
※ 実務では順番運用に幅があるものの、決議機関は取締役会(発行可能株式総数の範囲内)。
公開会社が「有利発行」を行う場合の決議機関
会社法の読み替え(201条・199条)を踏まえると、公開会社であっても有利発行のときは募集事項の決定は株主総会が原則。
実務の典型は次のとおり
1.株主総会で
・募集事項の決定を取締役会へ委任する決議
・有利発行決議
2.募集事項の通知
3.申込み
4.取締役会で割当決議
5.割当通知
6.払込み
7.払込期日到来(効力発生)
公開会社(特に上場会社)では、定時株主総会で必要最小限のみ決め、詳細は委任する運用が一般的。
旧商法先例の位置づけと、会社法下での違和感
先例(S30.6.25民甲1333):「有利発行のために株主総会の特別決議を要する場合の株主総会議事録は添付不要(取締役会議事録があれば足りる)」。
→この先例は現在も生きているとされています(商業登記ハンドブックより)。
・旧商法時代:募集事項の決定機関は常に取締役会。株主総会は有利発行の承認のみ。よって、登記で取締役会議事録だけを添付する理屈が立っていた。
・会社法下:公開会社の有利発行では募集事項の決定機関が株主総会へ移る。
にもかかわらず、「株主総会議事録は要らないのか?」という齟齬が生じる。
さらに実務懸念として、
・株主総会で募集事項の委任をしていても、後日の取締役会議事録に委任の事実が書かれていないと、株主総会議事録を添付しなくても外形上分からない。
・登記は不足書類があれば補正だが、余計な書類を付けても問題視はされないため、実務としては株主総会議事録を添付しておく運用を継続。
募集新株予約権(ストックオプション)にも同じ論点が当たる
・手続構造は募集株式と同様。
・旧商法下ではストックオプション目的の新株予約権は一律有利発行と整理され、株主総会決議が必須。先例の運用により株主総会議事録は添付不要とされていた。
・会社法下では必ずしも有利発行とは限らないが、有利発行として処理する場面では、前記議事録添付の齟齬がそのまま現れる。
本コラムのまとめ
・公開会社の有利発行は、募集事項の決定機関が株主総会へ移る。
・にもかかわらず、旧商法先例(取締役会議事録のみで可)が生きている扱いであることに実務上の違和感がある。
・実務対応としては、株主総会議事録を添付しておく運用が安全と考えられる。
・この問題意識は、募集新株予約権(ストックオプション)の有利発行でも同様に発生する。
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本日は、公開会社の有利発行で「株主総会議事録」は添付が要るのか?について解説しました。
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