新株予約権と引換えにする金銭の払込みと払込期日までに払込みをしなかった場合の効力
新株予約権と募集事項
株式会社が新株予約権を発行する場合には、会社法第238条1項に基づき「募集事項」を定める必要があります。
募集事項として定めなければならない代表的な内容は次のとおりです。
・募集新株予約権の内容及び数
・新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しない場合にはその旨
・新株予約権と引換えに金銭の払込みを要する場合には、その払込金額または算定方法
・新株予約権を割り当てる日(発行日)
・金銭の払込み期日を定める場合はその期日
・新株予約権付社債の場合の追加的事項(会社法676条)
このように、新株予約権の発行にあたっては、会社法に定められた募集事項を漏れなく決定する必要があります。
新株予約権と引換えにする金銭の払込み
新株予約権の発行に際しては、それ自体を有償で発行することも可能です。
この場合の払込金は、会社法第236条1項2号に規定される「行使時の出資財産」とは異なり、新株予約権そのものの対価を指します。
一方、新株予約権を行使する際に払い込む「行使価額」は、株式取得のための代金です。
この2つは性質が異なるため、区別して理解することが重要です。
ストックオプションとして新株予約権を発行するケースでは、通常は無償発行(払込不要)とすることが多いでしょう。
税制適格ストックオプションを採用する場合には、要件を満たすために「無償」であることが前提とされています。
払込み期日の設定と払込みの要否
会社法は、新株予約権の払込み期日について次のように定めています。
払込み期日を定めた場合
→ その期日までに払込みを行わなければならない(会社法238条2項)。
払込み期日を定めなかった場合
→ 新株予約権の行使期間の前日までに払込みを行わなければならない(会社法246条1項)。
つまり、募集事項で払込み期日を定めなかったときは、自動的に「行使開始日前日まで」が払込みのデッドラインになる仕組みです。
状況 | 払込期日設定 | 払込必要なタイミング | 成否の結果 |
---|---|---|---|
無償発行(払込不要) | 設定不要 | - | 発行後、行使可 |
有償発行(一般的) | 払込期日を設定 | その期日まで | 未払は失権 |
有償発行+期日を行使開始日と同日 | 設定可能 | 行使開始日と同日までに払えばOK | 期日を守れば権利成立 |
払込みをしなかった場合の効果
・新株予約権の割当日(会社法238条1項4号)において、割当を受けた者は新株予約権者となります(会社法245条1項)。
・したがって、払込み期日が割当日より後に設定されている場合は、払込みをしていなくても形式的には新株予約権者となることができます。
しかし、会社法246条3項により、払込み期日までに払込みをしなかった新株予約権者は、その予約権を行使することができなくなる=失権という扱いになります。
実務上の留意点
・発行時に有償である場合、払込金額が小さくても「払込みを忘れる」ことで失権となり、投資家にとって重大な不利益が生じます。
・払込み期日を設定せず「行使開始日前日まで」とする場合、発行から行使開始までの期間が長いと管理上のリスクが増えます。
・企業としては、募集要項の設計段階で払込み期日をどのように設定するかを慎重に検討する必要があります。
本コラムのまとめ
・新株予約権の募集において、払込金を要するかどうかは募集事項で定められる。
・払込み期日を定めた場合はその日まで、定めなかった場合は行使開始日前日までに払込みが必要。
・払込期日を経過しても払込みをしなければ、当該新株予約権は失権し、行使できない。
新株予約権は株式発行と異なり「割当日で発行成立→払込まなければ失権」という特徴を持っています。
この点を正しく理解し、発行会社・投資家双方がスケジュール管理を徹底することが重要です。
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本日は、新株予約権と引換えにする金銭の払込みと払込期日までに払込みをしなかった場合の効力について解説いたしました。
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