増資

按分処理か通算処理、自己株式を交付する際の会計・登記の違い

会社計算規則14条


前回のおさらい:資本金等増加限度額の基本式

会社計算規則14条1項では、増資により会社に入った出資金のうち、どれだけを資本金に計上できるかを「資本金等増加限度額」として算定します。

基本式
資本金等増加限度額
={(出資総額)×(株式発行割合)}-(自己株式処分差損)

今回はこの差損部分がある場合に、処理方法として選択肢となる「按分処理」と「通算処理」の違いを解説します。

自己株式を交付するときに起こること

会社が自己株式を交付する=かつて自社で買い取った株式を、出資の対価として再交付することです。

このとき、帳簿上の評価額(=帳簿価額)より安く交付すれば差損が発生し、高く交付すれば差益となります。
この差損益は損益ではなく、資本剰余金の増減として扱われます。

項目 差益あり 差損あり
資本金への影響 なし(変わらない) 減少(限度額が減る)
資本剰余金への影響 増加 減少
登記要否 基本的に不要 要検討(新株併用時)


通算処理とは?:シンプルにまとめる考え方

「通算処理」は、自己株式の帳簿価額を出資総額から控除する方式です。
これにより、自己株式処分差損を反映した「純増資額」がそのまま資本金等増加限度額になります。

実例:1,000万円の出資のうち、300万円分が自己株式(帳簿価額)
・出資総額:1,000万円
・自己株式帳簿価額:300万円(差損発生)
・新株発行割合:70% → 700万円
・通算処理:資本金等増加限度額=1,000万円-300万円=700万円

この方法では自己株式にかかる損失を直接控除するため、分かりやすく実務的にも採用されやすいです。

按分処理とは?条文構造に忠実な方法

按分処理は、条文構造(14条1項)に則り、次の順で計算します。

1.新株発行部分(出資総額 × 株式発行割合)
2.自己株式対価額(出資総額 × 自己株式処分割合)
3.自己株式帳簿価額
4.差損=帳簿価額-対価額

資本金等増加限度額
=新株発行部分-自己株式処分差損

両者を比較してみよう

観点 通算処理 按分処理
アプローチ 自己株帳簿価額を出資総額から控除 新株発行部分から差損だけ控除
式の簡潔さ シンプル 条文に忠実だが計算は複雑
資本金への影響 資本金の計上が抑えられる 資本金が多く計上されがち
登録免許税 安く抑えられる 高くなりやすい
剰余金の扱い 通算的に処理(差損は控除済) 差損を別途処理する必要あり

例:按分処理と通算処理の差を比較
・出資総額:100万円
・自己株式帳簿価額:50万円(自己株式処分割合20%)
・自己株式対価額:100万円 × 0.2 = 20万円
・差損:50万円-20万円=30万円
・株式発行割合:80% → 新株発行部分=80万円

按分処理
資本金等増加限度額=80万円-30万円=50万円

通算処理
資本金等増加限度額=100万円-50万円=50万円(※同じになる)

→ この例では結果が一致しますが、条件次第で差が出る場合もあります。

実務的にはどちらを選ぶべきか?


通算処理が向いている場面

・自己株式の帳簿価額が大きく、差損が多い
・登録免許税を抑えたい
・経理負担・登記費用を軽くしたい

按分処理が使われる場面

・上場企業で条文構造を厳密に遵守する必要がある場合
・公開企業の会計監査対応上、明確な構造が求められる場合

自己株式がある場合は、処理方法の選択が重要

自己株式を使った増資では、

・「資本金への影響」
・「登録免許税」
・「剰余金への影響」

など、複数のファクターが絡みます。

通算処理で損を回避できるか?
それとも按分処理が求められる局面か?

司法書士・経理担当・会計士が共通の理解をもって処理に当たることが、誤解や課税トラブルを防ぐポイントです。

手続きのご依頼・ご相談

按分処理か通算処理、自己株式を交付する際の会計・登記の違いについて解説しました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。



本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

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