増資

会社計算規則14条をどう読むか?資本金等増加限度額の「数式」を具体例で理解する

前回のおさらい:計算規則14条が問題となる場面とは?

会社計算規則14条は、会社が増資(=募集株式の発行等)を行う際に、どれだけ資本金に計上できるかを定めた規定です。
特に「新株発行」と「自己株式の処分」を組み合わせるケースでは、資本金に算入できる金額が一律ではなく、一定の限度額(資本金等増加限度額)までとされます。

この限度額の計算式が条文の文言そのままだと極めて分かりづらいため、まずは構造化された式と用語の定義を確認しておきましょう。

資本金等増加限度額の基本式(1項本文)

条文に対応した数式としては、以下のとおりです。

資本金等増加限度額
={(1号+2号-3号)×株式発行割合}-4号

この式を理解するために、まず各号の意味を整理しておきます。

用語の整理:1号〜4号の意味と実務的な翻訳

条文番号 内容 実務での意味
第1号 金銭出資の額 銀行振込された増資額など
第2号 現物出資の評価額 DESや事業譲渡などの現物財産
第3号 株式発行費用 現在は「0」とされる(附則11条5号)
第4号 自己株式処分差損(の絶対値) 帳簿価額>対価額となるときの差損分


補足:株式発行割合とは?

株式発行割合=(新株発行数)/(増資全体の株式数)
自己株式で対応する割合は「自己株式処分割合」と呼びます。

たとえば、100株の割当てのうち80株を新たに発行し、20株を自己株式で交付する場合

・株式発行割合:0.8
・自己株式処分割合:0.2

数値を入れて実例で理解する

例1:すべて新株発行で対応(100万円)
・出資総額:現金100万円(1号)
・自己株式なし → 自己株式処分割合0
・株式発行割合1.0
・差損なし(4号=0)

資本金等増加限度額=100万円×1.0-0=100万円

このケースでは全額が資本金に計上され、登記申請時には「資本金の額が増加したことを証する書面」が必要となります。

例2:半分を自己株式で対応(出資100万円のうち50万円分)
・出資総額:現金100万円(1号)
・株式発行割合0.5/自己株式処分割合0.5
・自己株式帳簿価額が60万円 → 自己株式対価額は50万円
・差損=60万円-50万円=10万円

資本金等増加限度額=100万円×0.5-10万円=40万円

つまり、資本金には40万円しか算入されず、残りは差損処理としてその他資本剰余金から減額されるかたちとなります。

「出資額=資本金」ではない理由

会社に現金が入ってきたとしても、それが常に資本金として登記されるわけではありません。
特に、自己株式を交付した場合や、差損が発生した場合には、資本金への算入額が制限されます。

これは資本金が出資者からの“純粋な出資の証”であるべきという、会社法上の理念に基づいているといえます。

実務ポイント:どの数字を押さえるべきか?

・新株発行割合を高くするほど資本金に計上できる金額が増える
・自己株式を使うと資本金は増えないが、登記不要・免許税なしのメリットあり
・差損が出るような自己株式処分は、資本剰余金を圧迫する可能性がある
・差損が発生する場合は“按分処理”と“通算処理”を比較検討すべき

手続きのご依頼・ご相談

条文を“公式”として使いこなせるようにしましょう。
会社計算規則14条1項は、あまりに難解な文言のせいで敬遠されがちですが、構造的に整理すると「出資額×発行割合-損失調整」というシンプルな式に還元できます。

次回は、按分処理と通算処理の違い、およびそれらが資本金・資本剰余金にどう影響するかを具体例で解説します。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。



本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

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