取締役会

社長の「代行順位」は何位まで定めるべきか? 取締役会議長の代行体制と実務上の留意点

「社長の代行順位」とは何か?

多くの株式会社の定款には、以下のような条文が設けられています。

「取締役会は取締役社長がこれを招集し、議長となる。ただし、社長に事故があるときは、取締役会の定める順序により他の取締役がこれを招集し、議長となる。」

ここにいう「事故」とは、一般的には社長が病気、出張、緊急不在等により職務執行が困難な状態を指します。
この定款に従って、取締役会では「社長に事故があった場合に、誰がその職務を代行するか」を順位付けして決定するのが「代行順位の決定」です。

代行順位は何位まで決めておくべきか?

一般的な誤解:定足数ベースで決めればよい?
たとえば、取締役が8名であれば、取締役会の定足数は過半数の5名です。
「社長以外に最大3名が欠席することを想定すれば、第3順位まで決めておけば足りるのでは?」という考え方がしばしば見受けられます。

しかし、これは一見合理的に見えて、実務的には不十分な場合があります。

盲点:社長が「特別利害関係人」の場合

取締役会では、特定の議案について「特別利害関係を有する取締役」は、議決に参加できず、定足数の算定からも除外されます(会社法369条2項参照)。
したがって、代表取締役である社長自身が特別利害関係人に該当する場合、議長としての職務も適切ではないと判断されることがあります。

この場合、仮に社長に「事故」がなくても、「代行順位に従って他の取締役が議長を務める」必要が生じます。

実例:社長が議長になれないケース

・取締役数:8名
・代表取締役Aが特別利害関係人
 → 定足数は7名中の過半数=4名
 → もしB・C・Dが欠席し、代行順位が第3位までしか設定されていないと…
 → 出席者E・F・G・Hでは「議長が不在」になるおそれあり

実務的な結論:全員分を決める必要はあるのか?

結論としては、以下のように整理できます。

項目 実務的な推奨
最低限 第3~4順位までは設定しておくと安心
実務対応としての現実解 議長以外の取締役の過半数程度まで決めておく
理屈上の完全対応 全取締役分の順位を決めておけば万全


議事録記載のポイント

代行順位を決定した場合には、取締役会議事録に明確に記載しておく必要があります。たとえば、

「代表取締役に事故がある場合における議長代行者の順位について、以下のとおり定めることを決議した。
第1順位:取締役〇〇〇〇、
第2順位:取締役〇〇〇〇、
第3順位:取締役〇〇〇〇。」

※「事故」の定義や、特別利害関係人の取扱いについても、定款や内部規程に整合性を持たせるとより実務的です。

代行順位の設定は“万が一”への備え

「社長に事故があった場合」という条項は一見形式的なものに思えますが、

・特別利害関係の有無
・欠席の発生
・定足数・議長権限の空白

など、予想外の事態を未然に防ぐ「保険」として極めて重要です。

最終的には、会社の規模・取締役構成・取締役会の開催頻度に応じて、実態に即した柔軟な順位設定を行うことが望ましいでしょう。

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本日は、社長の「代行順位」は何位まで定めるべきか? 取締役会議長の代行体制と実務上の留意点について解説いたしました。
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本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

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