特定財産承継遺言とは?司法書士が解説
特定財産承継遺言
相続におけるトラブルや手続の煩雑さを回避するためには、遺言書の活用が非常に有効です。
特に「特定財産承継遺言(とくていざいさんしょうけいいごん)」は、相続人への具体的な財産の承継を明確にする手段として注目されています。
本記事では、民法改正により明文化されたこの制度について、司法書士の視点からわかりやすく解説いたします。
特定財産承継遺言とは?
特定財産承継遺言とは、「特定の相続財産を、特定の相続人に相続させる旨」を明記する遺言のことです。
令和元年の民法改正により、その法的性質と効果が条文化されました(民法899条の2)。
例:
・「自宅の土地および建物を長男に相続させる」
・「○○銀行の預金全額を長女に相続させる」
このように記載された場合、当該財産は相続開始と同時に、指定された相続人へ直接承継されます。
特定財産承継遺言と特定遺贈の違い
混同されやすいのが「特定遺贈」との違いです。以下の表にまとめました。
比較項目 | 特定財産承継遺言 | 特定遺贈 |
---|---|---|
承継対象者 | 相続人に限る | 相続人・第三者いずれも可 |
拒否方法 | 相続放棄(家庭裁判所への申述が必要) | 単なる放棄で足りる(書面が望ましい) |
登記の方法 | 単独申請が可能 | 遺言執行者または共同申請が必要 |
登録免許税 | 原則0.4% | 原則2%(相続人であれば0.4%) |
特定財産承継遺言の主なメリット
・相続手続がスムーズに進む
他の相続人の同意や協力がなくても、単独で不動産の登記申請が可能です。
・登録免許税が安い
たとえば1,000万円の不動産でも、税率は0.4%で4万円。一方、遺贈では最大で2%(20万円)かかることもあります。
・遺産分割協議が不要
財産の帰属が遺言で明確になっているため、他の相続人との協議が不要になり、相続紛争の予防につながります。
特定財産承継遺言を作成する際の注意点
1. 遺留分への配慮
一部の相続人に偏った遺言内容となると、他の相続人から「遺留分侵害額請求」を受ける可能性があります。
相続人の構成 | 遺留分の割合 |
---|---|
配偶者・子など | 法定相続分の1/2 |
直系尊属のみ | 法定相続分の1/3 |
2. 表現は明確に記載すること
曖昧な表現(例:「自宅」や「土地一式」など)は、相続人間で争いの火種となる可能性があります。
「所在地」「登記簿番号」「金融機関名」「口座番号」など、具体的な財産を特定して記載しましょう。
3. 法的な形式に従う
自筆証書遺言では「全文自書」「署名・押印」「日付の明記」が必要です。
公正証書遺言では、公証人の関与のもとで作成するため、形式面の安心感があります。
配偶者居住権には使えない点に注意
「配偶者居住権」を設定したい場合には、遺贈や遺産分割協議による方法を選択する必要があります。
特定財産承継遺言では、居住権の単独設定は認められていません。
不動産の取得後はすぐ登記を
民法899条の2により、特定財産の承継が第三者に対抗できるのは登記がされてからと明記されています。
たとえ遺言で指定されていても、第三者が先に登記をした場合、その人の権利が優先される可能性があります。
そのため、相続開始後は速やかに登記手続を進めることが重要です。
手続きのご依頼・ご相談
特定財産承継遺言は、特定の財産について相続人を明示的に指定できる有力な手段です。
手続の簡素化、税コストの削減、トラブルの予防という点で非常に有効ですが、作成にあたっては法的な理解と細心の注意が必要です。
遺言書の作成から不動産登記に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。