役員変更登記の落とし穴と定款確認の重要性
取締役の変更登記
商業登記において、取締役や監査役の変更登記は最も頻繁に扱われる手続きの一つです。
一見すると「取締役の変更登記」として単純に思われがちですが、定款の記載を見落とし画一的に手続きしてしまったことがきっかけで、後にトラブルとなるケースも少なくありません。
今回は、実際の事例をもとに、役員変更登記に潜む落とし穴と、その対処法を解説します。
ケーススタディ:取締役を追加したい場合
まず、以下のような会社を想定してみましょう。
初期状態
取締役1名:Aさん(兼代表取締役)
定款の代表取締役規定:
「取締役が2名以上の場合、株主総会で代表取締役を選定する。」
この会社では、業績が好調となり、新たに取締役を1名(Bさん)追加することになりました。
代表取締役については変更せず、Aさんが引き続き務める予定です。
誤解されがちな考え方
新たに取締役Bを追加するだけであれば、「代表取締役の変更はないため、取締役変更登記だけで問題ない」と考える人もいるでしょう。株主総会議事録には「取締役Bの選任」のみを記載し、登記申請を進める…
一見、これで十分に思えます。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。
定款が示す「代表取締役の選定義務」
上記事例における定款の規定には、「取締役が2名以上の場合、株主総会で代表取締役を選定する」と明記されています。
このため、取締役Bが追加された時点で、代表取締役Aについて改めて選定手続きを取る必要があります。
代表取締役に変更がない場合でも、株主総会議事録には以下の2つの議題を記載する必要があります。
1.取締役Bの選任の件
→ 新たに取締役として選任されたBさんについて。
2.代表取締役Aの選定の件
→ 定款の規定に基づき、Aさんを改めて代表取締役として選定。
登記手続きとの関係
ここで重要なのは、手続き上「代表取締役の選定」が必要でも、登記上は代表取締役に変更がないため、代表取締役の変更登記は不要という点です。
登記申請で必要な書類
登記申請書に記載するのは「取締役Bの就任」についてのみです。代表取締役の変更がないため、代表取締役に関する記載や関連書類の添付は不要です。
<添付書類一覧>
・株主総会議事録(取締役Bの選任と代表取締役Aの選定を記載)
・株主リスト
・就任承諾書(取締役B)
・取締役Bの印鑑登録証明書
・登記委任状(代理申請の場合)
法律と定款を確認する重要性
この事例からわかるように、役員変更登記をする場合「会社法」と「定款」の両方を正確に理解し検討することが不可欠です。
特に、定款で代表取締役の選定方法が規定されている場合、それに従わない手続きは後に問題となる可能性があります。
代表取締役に関する会社法の基本ルール
・取締役会非設置会社の場合:代表取締役を選定しない場合、取締役全員が会社を代表する。
・定款が優先:定款に選定方法が明記されている場合は、その内容に従う必要があります。
ミスを防ぐための実践ポイント
役員変更の登記は単純そうに見える一方で、会社の定款や会社法を見落とすことで意外な落とし穴にハマることがあります。
適切な手続きを進めるためには、以下を実践することが重要です。
1.定款の確認
代表取締役や取締役の選任方法が定められている場合、それに従った手続きを取ること。
2.株主総会議事録の記載内容
登記上変更がない場合でも、議事録には必要な議題をすべて記載する。
3.司法書士への相談
会社法や定款に関する専門知識が求められるため、不明点があれば早めに専門家に相談する。
手続きのご依頼・ご相談
本日は役員変更登記の落とし穴と定款確認の重要性について解説しました。
役員変更登記は、シンプルな手続きにみえますが実は論点が多い手続きです。
登記プロセスのミスを防ぐことで会社の信用も保たれます。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。