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属人的株式とは?種類株式との違いや定款記載例などご紹介【株主ごとに異なる取扱いを行う旨の定款の定め】



属人的株式とは?種類株式との違いや定款記載例などご紹介【株主ごとに異なる取扱いを行う旨の定款の定め】


属人的株式とは

属人的株式とは、次の3つの権利に関して、株主ごとに異なる取扱いができる株式のことをいいます(会社法第109条2項)。

1.剰余金の配当を受ける権利
2.残余財産の分配を受ける権利
3.株主総会における議決権



例えば、次の例をみてみましょう。

Aさん(所有株式数:50株)議決権50個
Bさん(所有株式数:25株)議決権25個
Cさん(所有株式数:25株)議決権25個



であった場合、原則1株1議決権なので所有株数=議決権個数となり、上記のとおりとなります。
属人的株式(株主ごとに異なる取扱いを行う旨の定款の定め)としてAの議決権は1個、Bの議決権は3個、Cの議決権は5個とした場合は、次のとおりとなります。

Aさん(所有株式数:50株)議決権50個(1株につき1個の議決権)
Bさん(所有株式数:25株)議決権75個(1株につき3個の議決権)
Cさん(所有株式数:25株)議決権125個(1株につき5個の議決権)



属人的株式を設定できるのは、非公開会社(株式のすべてに譲渡制限が付された会社)に限られますので公開会社では設定することはできません。また、剰余金の配当権・残余財産分配権を全く与えないとする定めをすることはできず定められた場合は無効となります(会社法105条2項)。

属人的株式は株主平等原則の例外

株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければなりません(会社法第109条1項)。
ただし、非公開会社においては、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができます(同2項)。
そして会社法上、株主が有するこの属人的株式については内容の異なる種類の株式とみなされます。

属人的株式設定の要件

属人的株式は、「非公開会社」のみ設定が可能です。
設定するには、株主総会「特殊決議」が必要となります。

特殊決議とは、議決権を行使できる株主の半数以上であって、株主の議決権の3分の2以上にあたる多数の賛成があれば決議が成立します(会社法309条3項)。
特別決議と異なるのは、特殊決議は定足数が議決権を行使できる「株主の半数以上」であります。
特別決議は、原則定足数は「議決権の半数以上」となるため、ここに違いがあります。特殊決議は定足数が議決権数ではなく頭数となる点が特別決議よりも重いといわれています。
また、決議に必要な株主数及び議決権の数は、定款で加重することが出来ます。

属人的株式は登記不要

属人的株式を設定する場合は、定款に属人的株式の記載をする必要がありますが、属人的株式の定めは登記事項ではありません。
この点が種類株式とは大きく異なるところです。

属人的株式を定めた場合は、登記申請は必要なく、登記簿謄本にも属人的株式の定めは反映されないため、第三者が知ることはできません。
故に登録免許税が発生することもありません。
メリットもありますが第三者へ公示されないというデメリットもあります。

属人的株式定款記載例

属人的株式を定めた場合の定款の記載例は次の通りです。

(株主総会の議決権に関する株主ごとの異なる規定)
第●条 株主 ●●●●は、その保有する株式1株につき3個の議決権を有するものとする。


種類株主との違い

種類株式はその「株式」に異なる定めがされていますが属人的株式は「人ごと」に異なる定めがされています。
故に、種類株式は他人に贈与又相続した場合でも贈与を受けた人又は相続人が引続きその種類の株式を保有することが出来ますが、属人的株式の場合はその人限りになります。
1株10個の議決権があると定められた属人的株式は贈与したとしても贈与をうけた人は10個の議決権を行使することが出来ません。ここに大きな違いがございます。
また、種類株式は登記事項であり、設定は株主総会「特別決議」で良いところ、属人的株式は登記は不要であり、設定は株主総会「特殊決議」となります。

属人的株式の訴訟リスク

属人的株式は①剰余金の配当を受ける権利、②残余財産の分配を受ける権利、③株主総会における議決権について、株主ごとに異なる定めを設けることが出来る特殊な株式です。上述のように株主平等原則における例外となり、過去には属人的株式の定めを巡り裁判で争われて「無効」となった事例があります。

平成25年9月25日東京地裁立川支部民事第1部判決では、属人的株式の定めにより株主ごとに異なる取扱いを行う旨の定款の定めは、合理的な理由がなく正当性を欠いているような場合、特定の株主の基本的権利を実質的に奪っているような場合は、株主平等原則の趣旨に違反するとして当該定款変更にかかる株主総会決議を無効としています。

【判決要旨】平成24年(ワ)第2633号株主総会決議無効確認等請求事件
会社法109条2項の属人的定めの制度についても株主平等原則の趣旨による規制が及ぶと解するのが相当であり、同制度を利用して行う定款変更が、具体的な強行規定に形式的に違反する場合はもとより、差別的取扱いが合理的な理由に基づかず、その目的において正当性を欠いている場合や、特定の株主の基本的な権利を実質的に奪うものであるなど、当該株主に対する差別的取扱いが手段の必要性や相当性を欠くような場合には、そのような定款変更をする旨の株主総会決議は、株主平等原則の趣旨に違反するものとして無効となるというべきであるところ、株主総会の議決権および剰余金の配当に関する株主ごとの異なる規定を新設する内容の定款変更を行う旨の株主総会決議は、その目的の正当性および手段の相当性が認められず、株主平等原則の趣旨に著しく反する上、その株主平等原則違反の内容、程度に照らすと、多数決の濫用により少数株主である原告の株主としての基本的権利を実質的に奪うものであり、公序良俗にも違反するものであって、決議の内容自体が法令に違反するものとして無効である。



どこまでいくと合理性がないのか無効となるのかについては明確な線引きは存在しないため、このあたりは属人的株式設定のリスクといえます。
種類株式を発行するか、リスク承知で属人的株式を発行するかになりますが、属人的株式発行を選択する場合には、訴訟によって無効とされるリスクを減らすために、総株主全員の同意を得ておくなどしておくと良いでしょう。

まとめ

本日は属人的株式についてご紹介しました。
属人的株式や種類株式に関するご相談は永田町司法書士事務所までお問い合わせください。



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