減資

2026年3月31日までに減資したい場合の「逆算スケジュール」

事業年度末までの減資

「3月31日までに資本金を下げたいのですが、まだ間に合いますか?」

この質問は、毎年2月頃から急増します。
減資はスケジュールを詰めれば何とかなる手続きではありません。
むしろ重要なのは、着手時期より前に整理しておくべき前提条件です。

本稿では、事業年度末までの減資を検討する際に、必ず確認すべき実務上の論点を整理します。

「減資はいつでも決議できる」という誤解

減資の効力発生日は、株主総会(または株主全員の同意)で決めることができます。
この点だけを見ると、「極端な話、期末直前に決議すればいい」と誤解されがちです。

しかし実務では、減資の成否を左右するのは株主総会ではありません。
本当にスケジュールを縛るのは、次に述べる債権者保護手続です。

重要ポイント「債権者保護手続を省略できない」

減資では、原則として債権者に異議申述の機会を与える必要があります。
この期間は法律上確保しなければならず、株主の同意があっても短縮できません。

そのため、
・期末に向けて急いでいる
・株主は全員同意している
という事情があっても、債権者保護手続の開始が遅れた時点で、期末減資は物理的に不可能になるという局面が出てきます。
ここを見落としたまま「まだ何とかなるはず」と進めるのが、典型的な失敗パターンです。

公告方法と決算公告の有無が、実は最重要

減資を考える際、真っ先に確認すべきなのが次の2点です。
・現在の公告方法は何か
・直近の決算公告は済んでいるか
この2点によって、減資手続の設計自由度が大きく変わります。

「3月に増資が入るかもしれない」場合の注意点

実務で悩ましいのが、
「期中または期末に増資が入る可能性があるが、期末の資本金は下げたい」
というケースです。

この場合、減資自体が不可能になるわけではありませんが、
・増資が起こり得ることを前提にした決議設計
・増資と減資の効力関係の整理
が必要になります。

期末減資を考えるなら、
増資の有無・可能性を含めて1セットで整理する
という発想が不可欠です。




スケジュール例①

公告方法:官報

決算公告:すでに官報で完了している場合
<このケースが、最もスムーズです。

時期(目安) 手続内容
2月中旬 取締役会で減資方針を決定
同時期 官報へ減資公告の申込み
2月中旬〜下旬 株主総会決議(または株主全員の同意)
2月下旬 官報に減資公告掲載
2月下旬〜3月下旬 債権者保護手続(1か月)
3月下旬 減資の効力発生
効力発生日から2週間以内 減資の登記申請

ポイント
・決算公告が済んでいるかどうかで、着手可能時期が大きく変わります
・官報公告1本で完結するため、手続が比較的読みやすい

スケジュール例②

公告方法:官報

決算公告:未了(官報で同時公告)
決算公告と減資公告を同時に官報掲載するパターンです。

時期(目安) 手続内容
2月上旬 取締役会で減資方針を決定
同時期 官報へ「決算公告+減資公告」の申込み
2月上旬〜中旬 株主総会決議(または株主全員の同意)
2月中旬 官報掲載
2月中旬〜3月中旬 債権者保護手続
3月中〜下旬 減資の効力発生
効力発生日から2週間以内 登記申請

ポイント
・決算公告が未了な分、①より着手時期が前倒しになります。
・個別催告の記載内容にも注意が必要

スケジュール例③

公告方法:官報

決算公告のみ「電磁的方法(ウェブ掲載)」に切替える場合
官報掲載を減資公告のみに絞る設計です。

時期(目安) 手続内容
2月中旬 取締役会で減資方針・電磁公告採用を決定
同時期 決算公告を自社サイト等に掲載
同時期 官報へ減資公告の申込み
2月中旬〜下旬 株主総会決議
2月下旬 官報掲載
2月下旬〜3月下旬 債権者保護手続
3月下旬 減資の効力発生
効力発生日から2週間以内 登記申請

ポイント
・電磁公告のURL設定登記が別途必要
・調査会社対応は不要だが、登記の段取りを間違えると詰む

スケジュール例④

公告方法:日刊新聞紙(例:日刊工業新聞)

新聞公告を使っている、または切り替えるケースです。

時期(目安) 手続内容
2月上旬 取締役会で減資方針を決定
同時期 官報+新聞社へ公告申込み
2月上旬〜中旬 株主総会決議
2月中旬 官報・新聞に公告掲載
2月中旬〜3月中旬 債権者保護手続
3月中〜下旬 減資の効力発生
効力発生日から2週間以内 登記申請

ポイント
・新聞社との事前調整次第で、着手時期を後ろにできる余地あり
・公告費用とのバランス判断が必要

スケジュール例⑤

公告方法:電子公告(調査会社利用)

スタートアップ等で増えているケースです。

時期(目安) 手続内容
2月中旬 取締役会で減資方針を決定
同時期 電子公告調査会社へ依頼
同時期 官報へ減資公告の申込み
2月中旬〜下旬 株主総会決議
2月下旬 官報+電子公告掲載
2月下旬〜3月下旬 債権者保護手続
3月下旬 減資の効力発生
効力発生日から2週間以内 登記申請

ポイント
・調査開始日が遅れると一気に破綻
・「電子公告=早い」とは限らない

「制度上できる」と「実務上やるべき」は別

減資については、「制度上はギリギリ成立する」というラインと、「実務として勧められる」というラインが一致しないことが少なくありません。
期末に間に合わせること自体が目的化すると、
・公告や登記が綱渡りになる
・想定外の補正・差戻しで破綻する
・結果的に翌期にずれ込む
といったリスクを抱えます。

そのため実務では、期末に固執するより、次期早々に確実に実行する
という判断が合理的なケースも多くあります。

本コラムのまとめ

事業年度末までの減資を検討する際に重要なのは、
「いつ着手するか」ではなく、次の3点です。

1.債権者保護手続をいつ開始できるか
2.公告方法と決算公告の整理ができているか
3.増資の可能性を含めた資本政策全体が整理できているか

これらを確認せずにスケジュールだけを詰めても、期末減資はほぼ確実に行き詰まります。
減資は「期末イベント」ではなく、数か月前からの設計行為だと捉えることが、結果的に一番近道です。

手続きのご依頼・ご相談

本日は、2026年3月31日までに減資したい場合の「逆算スケジュール」をご紹介しました。
期末に減資を考えている企業様、会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。

本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

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