基準日制度とは何か?会社法124条の仕組みと実務上の注意点を解説
基準日制度
基準日制度の基本的な考え方
会社法124条は、株式会社が「基準日」を定め、その日に株主名簿に記載・記録されている株主(基準日株主)を、一定の権利を行使できる者として扱うことを認めています。
ポイントは次のとおりです。
・「いつの株主に権利行使させるか」を、会社側で明確に切るための制度であること
・基準日株主が行使できる権利の内容を、会社があらかじめ決める必要があること
・権利は「基準日から3か月以内に行使するもの」に限られること
株式が頻繁に売買される上場企業などでは、会社の知らないところで株主が次々と入れ替わります。基準日を設けることで、「この日現在の株主に権利を行使させれば足りる」という整理ができるわけです。
基準日を設定する手続き
基準日をいつにするか、基準日株主にどの権利を行使させるかといった決定は、会社の重要な業務執行にあたります。そのため、
・取締役会設置会社:取締役会で決定
・取締役会非設置会社:取締役・代表取締役が決定
という整理になります。
基準日を定めた場合、会社法124条3項により、
・基準日の2週間前までに
・その基準日と、基準日株主が行使できる権利の内容
を公告する必要があります(基準日公告)。
振替株式と基準日の関係
上場会社など、いわゆる「振替株式」が発行されている会社では、基準日を定めると、社債株式振替法に基づいて証券保管振替機構から会社に「総株主通知」が届きます。
・内容:基準日時点の振替口座簿に基づく株主の一覧
・実務:この通知を基礎に名義書換が行われ、会社の株主名簿が更新される
その結果、会社の株主名簿には「直近の基準日時点の株主の状況」だけが原則として記載されている、という状態になります。
株主総会と基準日の関係
どの株主総会の議決権か
基準日株主に行使させる権利として典型的なのが、株主総会の議決権です。このとき問題になるのが、
どの株主総会の議決権についての基準日なのか、どこまで特定する必要があるか
という点です。
この点については、
・「○年○月○日開催の定時株主総会」と日付まで特定する方法だけでなく、
・「○月頃に開催予定の株主総会」といった形で、ある程度幅を持たせた特定も許される
と考えられています。
定款で基準日を定める場合
基準日と、その基準日における株主の権利内容は、定款に書き込むこともできます。
・定款に基準日と権利内容が定められている場合
→ 会社法124条3項ただし書により、基準日公告は不要
たとえば、
・「毎年3月31日現在の株主を、当事業年度の剰余金配当を受けることができる株主とする」
といった定款の定めがあれば、その都度公告しなくても足ります。
少数株主が株主総会を招集する場合
会社法297条4項に基づき、少数株主が裁判所の許可を得て株主総会を招集する場面では、招集を行う株主の側で、
・基準日の設定
・基準日公告
を行うことができると解されています。
また、東京地裁昭和63年11月14日決定は、少数株主が基準日現在の株主を把握するために、
・基準日までの名義書換請求書
・それに対応する株券
について、閲覧・謄写を求めることができるとの判断を示しています。
つまり、会社名簿がなくても、基準日時点の株主を把握する手段が認められたという位置づけです。
「3か月以内に行使する権利」とは何か
会社法124条2項の括弧書きは、
基準日株主が行使できる権利は、基準日から3か月以内に行使されるものに限る
としています。
もっとも、実務では、配当をめぐって形式的に3か月を超えるようなケースが生じます。たとえば、
・配当基準日から配当の効力発生日(実際の支払日)まで
・事務手続きの都合で3か月を超えてしまう
といった場合です。
この点については、
・この規定の趣旨は、「基準日株主」と「権利行使時点の実際の株主」の乖離を大きくしないこと
・剰余金配当の決議がなされ、剰余金配当請求権が確定した後は、その乖離は問題にならない
と解されており、
基準日から3か月以内に配当決議がなされ、配当請求権が確定していれば、支払日が3か月を超えても差し支えない
と整理されています。
基準日後の株主による議決権行使(会社法124条4項)
会社法124条4項は、株主総会または種類株主総会の議決権について基準日を定めた場合でも、
・基準日後に株式を取得した者
の一部または全部に、議決権行使を認めることができる余地を規定しています。
ただし条件として、
基準日株主の権利を害してはならない
とされています。
どのような場面を想定しているか
基準日後に単純な株式譲渡があった場合、その取得者に議決権を認めてしまうと、
・基準日株主の議決権を奪う形になる
→ 基準日株主の権利を害する
ことになります。このような場合は124条4項の趣旨に反します。
この規定が問題となるのは、
・新株発行により株主が増加した場合
・合併等の対価として新株を交付し、株主が増えた場合
など、基準日後の新株取得者に議決権を認めるかどうかが焦点となる場面です。
買収防衛策としての新株発行と裁判例の示唆
基準日後の新株発行に議決権を認めるかどうかは、特に買収防衛策として新株発行が行われたケースで問題になります。
・支配権争いが生じている状況
・基準日後に発行された新株に議決権を認めることで、特定の株主の議決権比率が大きく変化する
このような状況での新株発行については、直ちに違法とまでは言えないものの、新株発行差止を求める仮処分事件で、
基準日後の新株発行に議決権を認めた事情が、「支配権維持」を主目的とした新株発行であることの判断要素として考慮された
とする裁判例(さいたま地裁平成19年6月22日決定)が存在します。
そのため、基準日後の新株主に議決権を認めるかどうかは、単なる技術的問題ではなく、支配権争いの文脈では慎重な検討が必要になります。
基準日実務のチェックポイント
最後に、基準日の運用で特に注意したいポイントを整理しておきます。
・どの権利(配当、株式分割、議決権など)について基準日を定めるかを明確にすること
・基準日公告が必要か、定款基準日で足りるかを確認すること
・振替株式の場合は、総株主通知→名義書換の流れを前提にスケジュールを組むこと
・配当基準日から支払日まで3か月を超えるときは、「決議日」との関係で124条2項を検討すること
・基準日後の新株発行に議決権を認める場合、支配権争いとの関係で裁判例の評価を意識すること
基準日制度は、一見シンプルな条文ですが、株主総会の構成や支配権争いに直結する場面で、実務上きわめて重要な役割を果たします。設計や運用を誤ると、のちの紛争リスクが一気に高まる領域ですので、具体的な案件ごとに慎重な検討が必要です。
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