医療法人における従たる事務所(支店)設置・廃止の法的整理
医療法人の支店
医療法人の業務拡大に伴い、本部の機能を分散させるため「従たる事務所(支店)」を新設したい、あるいは閉鎖したいというご相談をいただくことがあります。
医療法人における「従たる事務所」は、株式会社における支店と異なり、定款や行政手続に重大な影響があります。
本稿では、従たる事務所の 設置・移転・廃止 に関する法的取扱いを体系的に整理します。
医療法人における「従たる事務所」とは何か
医療法人は 「事務所の所在地」 を定款に必ず記載しなければなりません。
ここでいう「事務所」とは、
・総務・経理・人事など 事務作業を行う場所
・医療行為は行わない空間
を意味します。
つまり、株式会社で一般的にイメージされる「支店」「営業所」とは異なり、医療法人における従たる事務所(支店)は バックオフィスの拠点 を指します。
「分院(診療所)」とは別概念である
実務上混乱が多いポイントですが、
・分院(診療所) = 医療行為を行う場所(登記不要・定款の目的に記載)
・従たる事務所 = 事務作業を行う拠点(登記必要)
であり、両者は法律上明確に区別されています。
分院の開設・廃止は医療法上の行政手続(保健所等への届出)などが必要となりますが、
従たる事務所とは区別されますので、登記は不要 です。
従たる事務所を新設する場合(重要ポイント)
従たる事務所は 定款記載事項 であり、新設に際しては必ず以下の手続が必要です。
(1) 定款変更
定款に「従たる事務所の所在地」を追加する必要があります。
→ 社員総会決議が必要(医療法54条の9第1項)
(2) 原則として都道府県知事へ届出
医療法人の定款変更は、
原則:知事の届出が必要(医療法54条の9第3項)
例外:はじめての従たる事務所設置ではなく、従たる事務所の追加設置であり、定款に従たる事務所の所在地として「東京都千代田区」までの最小行政区画までの記載にとどめている場合は、千代田区内の追加設置の場合、定款変更を必要としませんので届出は不要です。ただし、登記をしたことの届出を事後的に行う必要はあります。
(3) 届出後に変更登記
従たる事務所は登記事項ですので、定款変更の効力発生後、法務局で変更登記を行います。
従たる事務所の移転
既に設置済みの従たる事務所を移転する場合、
主たる事務所の都道府県外移転の場合は、定款変更が必要となるため都道府県知事に届出が必要となります。
定款の記載方法によりますが、住所を「東京都千代田永田町一丁目11番28号」まで記載している場合は、同じ千代田区内であっても、定款変更が必要となるためやはり都道府県知事に届出が必要となります。
「東京都千代田区」と最小行政区画までの記載に留めている場合は、千代田区内で移転する場合、届出は必要ありません。
自治体により必要書類は異なる可能性があるため、個別確認が必須となります。
従たる事務所の廃止(閉鎖)
従たる事務所の廃止は、
・社員総会において定款変更(事務所所在地の削除)
・都道府県知事への届出
・変更登記
という流れとなります。
特に、「支店(従たる事務所)を閉じる」という相談で、
実は 分院の閉鎖(=登記不要)だった というケースも多いため、
支店と分院の違いの理解と確認は極めて重要です。
分院(診療所)閉鎖との比較
| 区分 | 医療行為の有無 | 定款記載 | 知事届出 | 登記 |
|---|---|---|---|---|
| 従たる事務所 | なし | 必要 | 原則必要 | 必要 |
| 分院(診療所) | あり | 目的の範囲で管理 | 行政手続のみ(廃止届等) | 不要 |
本コラムのまとめ
医療法人の「従たる事務所」は、
医療行為を行う分院とは異なり、定款記載事項であるため、
・新設
・移転
・廃止
のいずれの場合も、定款変更・知事届出・登記 の関係が発生し得ます。
まずは、分院と従たる事務所(支店)の法的性質の違いと医療法人特有の制度を正確に理解することが重要です。
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当事務所では、医療法人などの特殊法人の変更登記を多数取り扱っております。
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