登記申請手続(各種)

株主からの借入は取締役会決議が必要?「多額の借財」に該当する場合の実務対応

多額の借財に該当する場合の取締役会議事録の記載

会社が資金を調達する手段として、銀行などの金融機関からの借入だけでなく、株主や株主の資産管理会社から資金を借り入れるケースもあります。
しかし、こうした関係当事者からの借入れは、会社法上の手続や利益相反取引への該当可能性に注意が必要です。
本稿では、株主からの借入に際して検討すべき取締役会決議の要否や、議事録に記載すべき主要項目を整理します。

「多額の借財」に該当する場合は取締役会の承認が必要

会社法362条において、取締役会設置会社が「多額の借財」を行う場合には、取締役会の決議による承認が必要とされています。
この「多額の借財」とは、法令上の定義が明確に定められているわけではなく、会社の財務規模や資本金額、資金繰り状況などを考慮して個別に判断されるものです。

一般的には、会社の純資産または年間売上高に対して一定割合を超える借入れや、既存借入残高を大きく上回る新規借入れを行う場合などは、取締役会決議を経るのが安全です。

株主からの借入も「多額の借財」に含まれる

借入先が銀行か株主かという点で、会社法上の取扱いに差はありません。
したがって、借入金額が「多額の借財」に該当する場合は、株主からの借入であっても取締役会決議が必要です。

加えて、株主やその資産管理会社が取締役を兼ねている場合には、当該借入れが「取締役と会社の取引」(会社法356条1項2号)に該当し、利益相反取引としての承認手続きも必要になります。

この場合、承認決議において当該取締役は議決に参加できません(会社法369条2項)。
実務上は、「多額の借財」と「利益相反取引」の双方の観点をカバーする形で、取締役会議事録を整備しておくことが望ましいといえます。

取締役会議事録に記載すべき主要項目

株主からの借入に関する取締役会議事録を作成する際には、以下の項目を明示しておくのが実務上の基本です。

項目 記載内容の例
資金使途 子会社への追加出資資金、運転資金など具体的に記載
借入金額 ○○円(予定額)
借入先 株主〇〇氏または〇〇株式会社(資産管理会社)
金利 年〇.〇%(無利息の場合はその旨)
借入日 資金受入予定日
返済期日 元本返済期限を明確に記載
借入方法 金銭消費貸借契約書による借入
借入条件 担保・保証等がある場合は明記。なければ「特になし」
返済方法 一括返済または分割返済の方法・回数を記載

これらの項目は、銀行借入の場合とほぼ共通です。
株主からの借入だからといって特別な形式が必要なわけではありませんが、関係当事者間の取引である点を明確化し、適正条件であることを取締役会で確認しておくことが重要です。

税務上の留意点、金利設定の適正性

株主からの貸付金利が著しく低い、あるいは無利息の場合、税務上は「経済的利益の供与」として扱われ、寄附金や役員給与とみなされるリスクがあります。
そのため、借入条件は市中金利と大きく乖離しない適正水準に設定するのが望ましいとされています。
税理士や顧問弁護士と協議のうえ、契約条件を整備しておくことで、会計・税務上のリスクを最小限に抑えましょう。

本コラムのまとめ

・株主からの借入も、金額によっては「多額の借財」に該当し、取締役会決議が必要。
・株主が取締役を兼ねる場合は、利益相反取引の承認も必要。
・取締役会議事録には、借入金額・利率・返済条件・資金使途などを明確に記載する。
・税務上の観点からも、適正な金利設定と契約書の整備が不可欠。

手続きのご依頼・ご相談

本日は、株主からの借入は取締役会決議が必要?「多額の借財」に該当する場合の実務対応について解説しました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。

本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

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