定時株主総会の開催時期と役員の任期満了時期、平時と有事の取扱いを整理(商業登記)
本コラムの結論(要点)
・定時株主総会は、実務上「事業年度末から3か月以内」に開かれるのが通例ですが、会社法上は具体期日を固定していません(「毎事業年度の終了後一定の時期に招集」)。
・コロナ禍等の有事では、法務省Q&Aの整理により、①延期開催、②継続会、③独立開催というオプションが明確化。
・役員の任期満了と就任(重任・新任)の“時点”は、どの方式を選ぶかで変わります。
・会計監査人の自動再任の可否も影響を受けるため、事前設計が必須です。
「平時」の基本線
・定款に開催時期の定め(「事業年度終了後○か月以内」「毎年○月」など)があるのが通常。
・定款に時期の定めがある場合
・その開催時期の最終日をもって現任役員の任期が満了。
・その後に開催する定時総会で選任された役員が就任。
・会計監査人は、ここで任期が一旦切れると自動再任が効かないため、再度選任が必要になる点に注意。
・定款に時期の定めがない場合
・実務上は常識的な時期で開催されるものの、想定外の遅延があると判断が難しい。
ポイント→平時は「定款の時期」を軸に任期満了・就任を判定するのが実務上の安定解です。
「有事」の柔軟運用(法務省Q&Aの整理に基づく運用像)
有事(例:監査遅延・開催困難など)では、次の3方式が想定されます。
方式A・開催日を延期(事業年度末+3か月超で開催)
効果:延期後の定時総会終結時に役員任期が満了・選任者が就任。
会計監査人:有事の整理により、実務上自動再任の扱いが可能とされたケースあり(平時と異なる結論になり得る点が重要)。
方式B・継続会とする(二段構え・一体の総会)
例:6/30に改選等、7/20に計算書類承認(継続会)。
任期と就任の“時点”
・原則は継続会終結時に定時総会全体が終結=そこで任期満了・就任。
・ただし会社の選択により、当初会(6/30)で任期満了・重任日を6/30とする運用も可能(議事録に相応の記載が必要)。
個別交代(E辞任→F就任)の前倒し
・当初会の議事録と辞任届(議事録から辞任が明らかな場合は辞任届省略可)を添付すれば、継続会前でも登記申請可能。
・株主リストは、当該決議(当初会)のものを使用。
方式C・独立した二つの総会として開催
例:6/30に役員改選、7/20に計算書類承認(継続会とはしない)。
効果:6/30に開催された総会を便宜「定時株主総会」と解し、その終結をもって任期満了・就任と整理される運用が想定されます。
会計監査人:この構成なら自動再任が維持される整理(方式Bとの違いに留意)。
まとめ視点
・B(継続会)は「一体の総会」ゆえ、原則は継続会終結時が基準。ただし当初会基準への切替も可(議事録設計がカギ)。
・C(独立開催)は、6/30総会で任期満了・就任が決まるシンプル設計。会計監査人の扱いでも実務安定。
よくある論点の“置き場所”
「基準日公告」要否→株主異動が実質的にない合弁等では、基準日を改めて設けない運用が選ばれる場面あり(実務説明として「臨時総会と同じ感覚」)。
「定時株主総会」概念
招集時期説/議題内容説/折衷説があるが、定款時期に開催しつつ計算書類が未承認のケースでも、役員改選が決議されたならその総会終結時に任期満了・就任とする考え方は実務的(折衷的把握)。
補欠増員規定と任期
継続会スキームで当初会に就任した補欠(F)の任期を他取締役と同一の満了点で合わせるか、翌期の定時総会終結時までとするかは、設計と議事録の書き方で結論が左右。実例ごとに丁寧に組む。
設計を誤らないための「運用表」
シナリオ | 総会構成 | 任期満了の基準点 | 就任(重任・新任)の基準点 | 会計監査人 |
---|---|---|---|---|
A:延期開催 | 1回(遅延) | 延期後定時総会終結時 | 同左 | 有事整理により自動再任維持の結論が取り得る |
B:継続会 | 2回(一体) | 原則継続会終結時/選択可:当初会終結時 | 同左(選択に応じて6/30または7/20) | 原則は継続会基準。設計で差が出る |
C:独立開催 | 2回(別会) | 6/30総会終結時 | 同左 | 自動再任維持の整理が安定 |
実務アドバイス(運用設計の勘所)
・まず定款の開催時期規定を起点に、“平時か有事か”を内部で定義してから方式(A/B/C)を選ぶ。
・会計監査人の自動再任が切れない設計を最優先(継続会採用時は特に議事録設計を慎重に)。
・議事録・辞任届・就任承諾書の“日付と時点”の整合を取る(「をもって」「日付で」の揺れは極力排除)。
・株主リストの紐付けは、決議を行った“その会”のものを添付するのが原則。
「基準日公告」は実質判断。合弁等で異動がないなら不要と整理できる場面もあるが、社内の合意記録を残す。
本コラムのまとめ
・平時は定款の開催時期を基準に、有事はQ&Aの柔軟運用で「延期」「継続会」「独立開催」を使い分けます。
・任期満了・就任の“時点”と会計監査人の扱いが分かれ目。議事録の設計が結果(登記原因日・添付書面・株主リスト)を決めます。
・迷うときは、まず方式B(継続会)と方式C(独立開催)の違いを表で確認し、会計監査人の連続性を軸に決めると破綻しにくいです。
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本日は、定時株主総会の開催時期と役員の任期満了時期、平時と有事の取扱いを整理(商業登記)について解説いたしました。
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