株式併合の端数処理をどう設計するか(非上場会社の実務整理)
位置づけ、少数株主の整理と併合の選択
株式併合は、現在は自由に行うことができます。
実務では、少数株主の整理を目的として検討される場面が多く、他の手段(単元株制度、自己株式の取得・消却、上場会社での全部取得条項付種類株式による完全子会社化 等)との比較のうえで、手続が簡素な併合を選ぶケースがあります。もっとも、紛争リスクの評価は不可避です。
併合の基本手続(株券不発行会社の前提)
・株主総会の決議事項: ①併合比率 ②効力発生日
・株主への通知: 効力発生日の2週間前まで
・登記添付: 株主総会議事録等…
・買取請求権: 株式併合には株式買取請求権はありません
通知は「何株が何株になるか」の周知にとどまります。端数が生じない設計であれば、株主の権利に実質的影響は生じません。
端数が生じるときの法的枠組み
会社法234条・235条の要旨は次のとおりです。
・端数の合計(端数合算で1株未満は切捨て)に相当する株式を競売し、その代金を各端数割合で按分交付する
・非上場株式は、裁判所の許可により競売以外の方法で売却可能
・会社が端数合算分の全部又は一部を買い取ることも可能(取締役会決議事項あり)
計算イメージ:0.9株・1.8株・2.6株 ⇒ 合計端数は2.3株
→ 2株を売却、0.3株は切捨て、売却代金を9:18:26(= 0.9:1.8:2.6)で按分。
※端数表示の小数点の取り扱い(どこまで計算するか)は実務上の悩ましい点です。
売却実務の要点
・売主の立場:便宜上、会社が売主(本来は端数株主の共有だが、処分権限は会社)
・譲渡承認:会社が売却先を決めるため不要
・名簿書換請求:会社法133条1項により不要(元共有株主と買主の共同請求を要しない扱い)
裁判所許可の申立て(非上場会社)
時期:併合効力発生後に申立て
買受人:会社・第三者のいずれも可(申立時に未定でも可)
期間感:通常は1週間〜10日が目安とされるが、非上場での申立ては稀
必要書類(例)
・定款・登記事項証明書(併合登記後のもの)
・併合手続書類(議事録、公告があればその写し 等)
・買受書の写し(あれば)
・会社買取の場合の取締役会議事録
・株価鑑定書(最大のボトルネック)
価額決定の難所
非上場株式は評価方法(例:配当還元価額方式 vs 純資産価額方式)で大きく数値が乖離し得ます。
関与者間で見解が割れることもあり、裁判所は価額妥当性に強い関心を持ちます。
実務例では、条件付で申立てどおりの価額が許可されたケースもあります(端数株主が多数で、売却代金に納得している事情等が斟酌)。
許可後の売却と、その後の組織再編への影響
許可が下りれば売却へ進みます。もっとも、他の組織再編(例:株式交換)を控えている場合、
・許可前または売却前に組織再編を進めると、売却対象の同一性や説明可能性に疑義が生じかねない
・実務上は、端数合算株の売却を完了してから組織再編の効力発生日を設定するのが無難
結果として、効力発生日が当初計画から延びる(例:1.5か月程度)ことがあります。買主が直後に株式交換の影響を受ける点の情報提供にも留意が必要です。
端数は「出さない」が基本、出すなら周到に
端数は設計段階で可能な限り回避するのが基本
それでも端数を敢えて出す(少数株主整理)なら、
・価額根拠(鑑定)の準備
・裁判所対応の見込み
・スケジュール影響(後続の組織再編を含む)
を織り込んだ現実的な工程表が不可欠です。
実務負荷は小さくありません。関係者(会社・弁護士・会計士・司法書士)が役割を明確化して連携することで、許可・売却・登記までの確実な完走につながります。
手続きのご依頼・ご相談
本日は、株式併合の端数処理をどう設計するか(非上場会社の実務整理)について解説いたしました。
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