臨時決算における会計監査人設置会社での取扱いと実務上の留意点
会計監査人設置会社の場合の手続
臨時決算(臨時計算書類の作成と承認手続)において、会計監査人設置会社であれば、次のように流れが変わります。
・会計監査人による監査と監査報告が必要になる
・その代わりに、株主総会での承認は不要となり、取締役会の承認で計算書類が確定する
これは定時株主総会における決算承認と同じ構造です。
ただし、通常の計算書類の場合と異なり、臨時計算書類については株主総会への報告義務もありません。
実務であまり利用されない理由
臨時決算の手続は定時総会の決算承認とほぼ同じであり、監査役監査や取締役会承認、場合によっては株主総会の承認も必要です。
しかし、結果として得られるのは 分配可能額の修正 に過ぎず、用途が限られます。
さらに、会計監査人設置会社では、臨時決算ごとに会計監査人の報酬が発生し、通常の監査費用とは別にコストがかかります。
このため、手間と費用をかけてまで実行するケースは少ないのが実情です。
臨時決算日の設定に関する制約
特に注意が必要なのは「臨時決算日をいつに設定できるか」という点です。
・3月決算会社を例にすると、前事業年度(3月末)の計算書類が確定する前に、4月以降の日を臨時決算日とすることはできません。
・例えば、平成29年3月期の定時株主総会が6月30日に開催される場合、それ以前に4月1日や5月末を臨時決算日とすることはできません。
これは、前事業年度末日の翌日から臨時決算日までの期間が「臨時会計年度」となるため、基準となる前期末の計算書類が確定していない段階では臨時決算を行うことができないからです。
具体例:合併差益を配当したい場合
例えば4月1日に完全子会社を吸収合併したケースでは、3月末の計算書類にはその損益が反映されません。
この場合、合併差益を株主に配当するには、定時株主総会で計算書類を確定させたうえで臨時決算を行う必要があります。
・完全子会社の吸収合併による損益は特別損益としてPLに計上され、臨時決算をしなければ分配可能額に算入されません。
・これに対し、資本剰余金の増加として処理される場合には、臨時決算をしなくても分配可能額に含めることが可能です。
実務上の疑問点
では、定時株主総会において、
第1号議案:計算書類の承認
第2号議案:4月1日を臨時決算日とする臨時計算書類の承認
第3号議案:臨時計算書類に基づいた剰余金の配当
といった流れを同日に処理することが可能なのか
それとも、計算書類の確定後でなければ臨時決算手続自体を開始できないのか
同日の株主総会で通常決算と臨時決算を両方扱うことは可能
ただし、臨時計算書類は通常決算が確定してからでなければ承認できない。という条文構造である以上は、
実務では「定時株主総会終了後に、臨時株主総会を形式的に招集し、その場で臨時計算書類を承認」という処理が一般的と考えていいのでしょうか。検討課題です。
本コラムのまとめ
・臨時決算は会計監査人設置会社では監査報告が必要になるが、株主総会承認は不要(取締役会承認で足りる)。
・手続は定時総会の決算承認とほぼ同じで負担が大きく、利用される場面は少ない。
・前期の計算書類が確定する前に臨時決算日を設定することはできない。
・合併差益を配当したい場合など特定の場面では利用されるが、同日の株主総会で承認まで一気に行えるかは疑問が残る。
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本日は、臨時決算における会計監査人設置会社での取扱いと実務上の留意点について解説いたしました。
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