基準日に関する定款の定めとその限界、臨時株主総会の場合の注意点
問題となった定款規定
ある会社の定款には次のような規定案が置かれていました。
「臨時株主総会では、招集日直前の月末時点で株主名簿に記載または記録されている株主を、当該総会で議決権を行使できる者とする。」
一見すると便利な規定のように見えます。
しかし、臨時株主総会の基準日に関しては、法律上の建付けと齟齬が生じる可能性があります。
基準日制度の趣旨
基準日は、本来であれば株主総会当日の株主が権利行使できるという原則を修正し、ある時点で株主名簿に記載された者を権利行使株主とする制度です。
・基準日を設けた場合、株主は基準日までに名義書換えを行う必要がある
・そのため会社は基準日の2週間前までに公告を行い、株主に周知させる義務がある(会社法124条3項)
したがって、基準日は「具体的な日付」でなければならず、株主が事前に把握できなければ意味をなしません。
臨時株主総会における問題点
臨時株主総会は開催時期が不定であるため、
・「招集日の前月末」といった相対的な基準日では、株主は事前に把握できない
・結果として、不意打ち的に株主の権利を制限する恐れがある
このような定款規定は「別段の定め」として有効とは認められず、結局は公告が必要になると考えられます。
文献の解説
中西敏和『未公開企業の正しい株主総会のやり方』(中経出版・2001年)56頁でも、次のように指摘されています。
「臨時株主総会に関しては基準日を特定することが困難である。したがって、基準日を設ける場合には必ず公告が必要である。」
実務上の結論
・臨時株主総会で基準日を設ける場合は、その都度公告を行う必要がある
・株主の異動がない会社であれば、基準日自体を定めなくても支障はない
・「招集日の前月末」といった抽象的な定款規定は効力を認められない可能性が高い
最終的に、この会社でも「無理に定款で定めず、基準日を必要とする場合のみ公告する」方針に落ち着きました。
本コラムのまとめ
・基準日は「株主に周知可能な具体的な日付」であることが必要。
・臨時株主総会に一律の基準日を定款で定めることは適切ではない。
・実務では、必要がなければ基準日を設けず、設ける場合には公告で対応するのが安全。
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本日は、基準日に関する定款の定めとその限界、臨時株主総会の場合の注意点について解説いたしました。
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