株主総会

株主総会の招集手続と書面決議の関係(第1回)議決権行使書面と319条決議の混同に注意

混同しがちな「書面決議」とは何か?

非上場会社において「株主総会は書面で済ませたい」というご相談は多くありますが、その際に混同されがちなのが、「書面による議決権行使」と「書面決議(みなし決議)」の違いです。
結論からいえば、両者はまったく異なる手続きであり、適用条文も要件も異なります。誤解したまま手続きを進めると、招集手続きの瑕疵や総会決議の無効リスクにもつながりかねません。

本シリーズでは、3回に分けて、これらの違いを明確にし、実務上の選択と手続の正確性を高めるための指針を解説していきます。

概要:書面による議決権行使とは(会社法第298条第1項第3号)

まず、株主が招集された株主総会に出席せずに、事前に書面で賛否を表明する制度が、「書面による議決権行使」です。これは以下の要件と流れに従って行われます。

項目 内容
根拠条文 会社法第298条第1項第3号
手続対象 株主総会(通常開催される)
必要な準備 取締役会の招集決定、参考書類・議案通知
書面 議決権行使書(署名または記名押印)
招集期間 原則として総会開催日の2週間前までに通知
決議日 実際の株主総会開催日


実務上の特徴

・株主総会自体は開催される前提であり、出席しない株主のための補完的手段。
・参考書類の作成が義務付けられる(議案の内容を正確に理解させる必要があるため)。
・反対株主がいても、法定の決議要件(多数決など)を満たせば決議成立。


書面決議(みなし決議)とは(会社法第319条)

一方で、会社法第319条に規定される書面決議、いわゆるみなし決議とは、株主総会を開催することなく、株主全員の同意によって決議を成立させる手続きです。
詳細は次回以降で掘り下げますが、招集決定も、招集通知も不要であり、参考書類の作成義務もなく、効率性の高い手法である反面、株主全員の同意が絶対的に必要という制約があります。

よくある誤解「書面でやりたい」はどっち?

「株主に書面を送って決議を取りたい」と言われた場合、その意図がどちらの制度を指しているのかを正確に把握することが非常に重要です。

・株主総会は開催する → 書面による議決権行使(298条)
・株主総会は開催しない → 書面決議(319条)

特に、書面による議決権行使を全員が提出したからといって、それが自動的に319条の書面決議になるわけではありません。あくまで制度の趣旨と法的要件に基づいて手続きを設計すべきです。

手続きのご依頼・ご相談

「書面で済ませたい」という要望に応じて手続きを簡素化する場合でも、制度趣旨を踏まえた正確な判断と、法的根拠に基づいた対応が不可欠です。
制度の混同による株主総会手続きの瑕疵のリスクを回避しましょう。

次回は、会社法第319条の「書面決議」について、実務上の手続きやメリット・注意点を詳しく解説します。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。



本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

ご相談・ご依頼はこちら
お問い合わせ LINE

ご相談・お問い合わせはこちらから