登記申請手続(各種)

書面決議の“どこを基準にするか”?株主提案権と取締役会決議の実務整理

書面決議の基準

本稿は、書面決議(みなし決議)を前提に、次の二点を整理します。
・株主提案権(303条)×書面決議:いわゆる「8週間前」の基準はどこか。
・取締役会の書面決議:提案時と同意時で取締役の構成が変わるとき、誰の同意が要るのか。

あわせて、代表取締役の予選と就任時の取締役構成の不一致にまつわる登記実務の注意点もまとめます。

株主提案権と書面決議「8週間前」の基準日

論点
書面決議では「株主総会の日」が事前に決まらないのが通常です。では、株主提案の「8週間前」は、
みなし決議日を基準に取るのか、
提案日を基準に読み替えるのか。

整理
・実務感覚では、株主全員同意が前提の会社なら、株主自身が書面決議を提案してそのまま成立させれば足り、8週間の議論は事実上生じにくい構造です。
・規定ぶりからは招集前提の制度設計がうかがわれ、書面決議に株主提案権の規定をそのまま当てはめない(適用除外)という整理が自然です。
・いずれにせよ、実務では「書面決議に乗せて即時成立」という運びにすれば、8週間論点は回避できます。

取締役会の書面決議、提案時と同意時で構成が変わる場合

代表例(実際の案件構成)
・1回目取締役会(書面):代表取締役の予選+株主総会招集決定
・株主総会(書面):取締役E選任(就任は後日付)
・2回目取締役会(書面):別議案の決議
この間に、同意時点では取締役が増員している(提案時ABCD → 同意時ABCDE)というズレが発生。

どの時点の「全員同意」が要るか
考え方は二つに整理されます。
1.提案時の取締役全員の同意で足りるとする(途中の増減は偶然事情として切る)。
2.みなし決議成立時点の取締役全員の同意が要るとする(開催型取締役会の「開催日」に合わせる発想)。

実務対応(安全側)
増員が見込まれる場合は、新任予定者にも提案書を発し同意を取得しておくのが無難。
減員(途中辞任)がある場合は、辞任者の同意は不要(決議時には取締役でないため)と整理しやすい。
「みなし決議日」を「期限付決議の効力発生日」に近いものと捉え、みなし決議日そのものの全員同意までは要しないとの見解もあり得ますが、確信が置けない場面では広めに同意を取り切るのが安全です。

代表取締役の予選と就任時構成の不一致/登記の運び

予選時の取締役構成と就任時の取締役構成が異なるケースが実務上発生します。
・申請実務では、たとえば
代表取締役選定の登記を先に申請・完了 → ② 取締役増員の登記を後から申請、
と分けて運ぶことで、各申請単位では要件を満たす形にできます。
・もっとも、申請の切り方で結論が変わるべきではないというのが基本姿勢で、実際に通常どおりの一括申請でも受理された例があります。運用に差が出た時期の情報もあり、所管の運用傾向を踏まえつつ、基本は堂々と申請する構えが妥当です。

「みなし決議日」と「同意日」が異なる場合

同意日(全員同意が整った日)とみなし決議日(効力発生日を後日に設定)がズレる設計もあります。
・これを開催型取締役会の「開催日」=みなし決議日と同視してその時点の全員同意まで求めるのは、期限付決議に近い性格を踏まえると行き過ぎという見方も可能。
・ただし最終的には同意取得を広めに確保しておけば、審査・社内統制の両面で安全です。

実務指針(チェックリスト)

株主提案権×書面決議
・書面決議前提の会社では、株主自身が書面提案→即時成立で運ぶ(8週間論点は事実上消える)。

取締役会の書面決議
・増員が見込まれる:新任予定者にも提案・同意取得。
・減員が出る:辞任者の同意は不要と扱いやすい。
・同意日とみなし決議日がズレる:期限付決議の発想で整理しつつ、広めに同意を取る。

登記の運び
・申請を分ければ各要件を満たしやすいが、基本は一括でも堂々と。運用差がある局面は事前の段取りで吸収。

本コラムのまとめ

・株主提案権の「8週間」は、招集前提の制度であり、書面決議には適用しない整理が自然。実務上も書面による即時成立で回避可能。
・取締役会の書面決議は、構成の増減が絡むときに誰の同意を要するかが論点。安全側は新任予定者も巻き込んで同意取得。
・代表取締役の予選と就任時構成の不一致は、登記の申請の切り方で形式を整えつつ、原則は正面から申請し受理してもらう。

手続きのご依頼・ご相談

本日は、書面決議の“どこを基準にするか”?株主提案権と取締役会決議の実務整理について解説いたしました。
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本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

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