増資

外貨・時価評価が絡む現物出資と減資の手続実務解説、公告と決議の限界

外貨建て増資と資本金計上の基本構造

外国会社株式の現物出資を理解する前提として、まず 外貨による金銭出資 と 資本金・資本準備金の計上方法を整理する必要があります。

募集事項の決定方法

募集株式の発行に際しては、以下の事項を円または外貨で決議することが可能です。

・募集株式の払込金額
・増加する資本金および資本準備金の額

また、実際の払込みが円で行われるか、外貨(外貨預金口座)で行われるかによっても処理が異なります。

払込金額と実際の払込額

原則「実際に払い込まれる額」は「払込金額の総額」以上でなければならない
さらに「実際に払い込まれる額」は「増加する資本金および資本準備金の合計額」以上でなければならない

この関係が外貨を介すると複雑になります。
為替レートの変動によって、決議時点と払込時点で日本円換算額がずれるため、資本金の額を多めに設定するなどの工夫が必要になります。

資本金と資本準備金のバランス

資本金の額は、払込み額の2分の1以上としなければならず、残額を資本準備金に計上するのが原則です。
外貨で決議した場合、切りの良い金額にならないことが多く、実務上は端数処理を意識した設定が求められます。

現物出資の特殊性と簿価・時価評価の違い

外国会社株式を現物出資する場合、現金出資とは異なる複雑さが生じます。

「現物出資財産の価額」と「資本金等増加限度額」の不一致

現物出資の場合、株主総会で決議する「現物出資財産の価額」と、会計上計上される「資本金等増加限度額」が一致しないことがあります。
これは、会計基準に従って簿価または時価で計上されるためです。

・簿価で承継→帳簿上の価額がそのまま計上され、あらかじめ確定している
・時価で計上→出資時の市場価額等を基準にするため、決議時点では確定できない

時価評価による不確定性

特に外国会社株式など、時価で評価される財産を現物出資する場合、決議当日の株価や為替レートによって資本金等の増加額が変動します。
このため、増資効力発生前に減資手続を並行して進めることが難しくなります。

現物出資と検査役調査

現物出資では、原則として「払込金額の総額を満たしているか」を検査役が調査します。
ただし以下のような場合には調査を省略できます。

・財産の価額が500万円以下
・発行株式数が発行済株式総数の10分の1以下
・弁護士等の証明を受けた場合

ただし、既存株主の出資比率や1株あたりの払込金額との関係で、これらの省略要件を実際に利用できる場面は限られます。

検査役調査・種類株式の利用・公告手続の工夫


検査役調査を回避する工夫

現物出資の場合、会社法207条により原則は検査役調査が必要です。ただし、以下の方法で省略が可能です。

・価額を500万円以下にする(207条9項2号)
・発行済株式総数の10分の1以下の発行に抑える(207条9項1号)
・弁護士等による証明を受ける(207条9項4号)

もっとも、実際には株主間の出資比率や既存株主の払込価額との整合性のため、これらを柔軟に使えるケースは少ないのが実務です。

種類株式を利用した価額調整

出資価額を混在させないために、種類株式を発行して払込金額を分離する手法も用いられます。

例えば、
・普通株式:1株5万円
・A種類株式:1株100万円

このように種類を分けることで、1株当たりの価額が混ざることを避けられます。

減資公告の実務上の課題

減資には債権者保護手続が必要であり、官報公告には「減少する資本金の額」を明記する必要があります。
公告原稿は通常、決議の約1週間前に入稿するため、決議時点で具体的な金額を確定できない場合に大きな支障となります。
外国会社株式など、時価や為替レートにより変動する財産を現物出資するケースでは、公告金額が決まらず、同一株主総会での増資と減資の同時決議は事実上困難となります。

外国会社株式を用いた増資・減資の最終整理

外国会社株式を現物出資財産として利用する場合、次のような課題が浮き彫りになります。

1.資本金等増加限度額の不確定性
・株式は時価で評価され、さらに為替レートの影響も受けるため、決議時点で増資額を正確に確定できない。
2.公告入稿との矛盾
・減資公告には具体的な「減少額」の記載が必要であり、決議の1週間前には入稿が必要。
・しかし増資効力発生前には金額が確定せず、同時決議では公告が成立しない。
3.実務上の選択肢
・結果として、まず増資を実施して効力発生を確定させ、その後に減資手続きを開始するという順序を取らざるを得ない。
・資本金だけでなく資本準備金も減少させたい場合には、さらに手続きが複雑になる。
4.登記上の取扱い
・登記事項は日本円ベースで処理されるため、公告・決議も最終的には円建てで行うのが妥当。
・「減資額を外貨で決議できるか」「公告に外貨を記載できるか」という論点もあるが、実務上は「金○○円を減少して金○○円にする」との書式が前提となる。

見込みで減資する場合の可否(条件付減資)

もっとも、決議時点で資本金増加額が確定できないケース(新株予約権行使や申込未確定の募集株式発行など)では、条件付減資決議・公告が認められています。

実務の工夫

【公告文例】
当社は、資本金の額を●●●万円減少し▲▲▲万円とすることにいたしました。
また、●年●月●日から●年●月●日までの期間に行われる株式の発行により増加する資本金額と同額を減少し、最終的な資本金の額を▲▲▲万円とすることにいたしました。

重要なのは 「最終的な資本金額を明記すること」 です。
債権者保護手続の趣旨は「減資後の会社の資本水準」を知らせる点にあるため、減少額が不確定でも最終額が明らかならば要件を満たすと解されています。

【実例】
株式会社FOOD&LIFE COMPANIES(スシロー)も、条件付減資公告を実施しており、実際の登記では公告時の予定額より少ない額で減資が行われたことを確認しています。

手続きのご依頼・ご相談

本日は、現物出資による増資と減資の同時決議は可能か?外国会社株式・外貨決議をめぐる実務対応について解説いたしました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。



本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

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