自己株式を交付したら資本金は増えるのか?会社計算規則14条の基本と実務対応
実務家泣かせの「会社計算規則第14条」
会社法の中でも、実務家にとって特に頭を悩ませる規定のひとつが「会社計算規則第14条」です。
この条文は、募集株式の発行等による資本金等の計上額、いわゆる「資本金等増加限度額」の算定方法を定めたものですが、条文構造が極めて複雑で、特に中小企業の増資実務や登記対応において解釈の誤りが生じやすい点が問題です。
結論から:条文が伝えたいのは「新株発行か、自己株式処分か」
まず大枠を理解するには、次の前提を押さえることが不可欠です。
・新株を発行して増資する場合:会社に新たな資金が入り、資本金が増加する(登記事項)。
・自己株式を交付して増資する場合:会社には資金が入るが、資本金は増加しない(登記不要)。
この違いは、単なる会計上の処理の差にとどまらず、登録免許税の算定や登記義務の有無といった実務上の対応にも直結します。
「資本金等増加限度額」とは? 〜数式で見える条文の正体〜
会社計算規則14条1項は、ざっくりいうと次の式で資本金等増加限度額を定義しています。
資本金等増加限度額
={(出資総額)×(株式発行割合)}-(自己株式処分差損)
・出資総額:現金・現物出資の合計
・株式発行割合:新株で対応する割合(自己株式分は含まない)
・自己株式処分差損:帳簿価額>実際の対価額となったときの差損
図解:基本構造
出資方法 | 資本金等増加限度額 | 登記の要否 |
---|---|---|
すべて新株発行 | 全額(×1.0) | 要 |
すべて自己株式 | 0 | 不要 |
混在(併用) | 新株部分-差損 | 原則要(但し慎重に判断) |
なぜ“自己株式の処分”は資本金を増やさないのか?
自己株式とは、会社が過去に株主から買い戻した株式です。
この株式を増資の対価として再び第三者に交付しても、「新たに発行した株式」ではないため、会社の資本金の基礎となる出資に紐づいていないと整理されます。
さらに実務上重要なのは、自己株式の「帳簿価額」に対して対価が下回る場合、差損が生じ、その差損は資本金等増加限度額から控除されるという点です。
自己株式を使う場合の“差益・差損”の考え方
「新株発行」はいわば“新品の販売”
「自己株式処分」は“中古品の販売”に例えることができます。
仕入値(帳簿価額)より高く売れば差益、安く売れば差損。
この差益・差損は会計上、損益ではなくその他資本剰余金として処理されます。
・差益が出ても資本金には加算しない(剰余金にのみ反映)
・差損が出た場合は資本金等増加限度額から控除される(登記される金額が減る)
実務の選択肢:新株発行vs自己株式交付
もし会社が自己株式を保有していれば、次のいずれかを選択できます。
1.すべて新株発行:資本金が最大化されるが、登録免許税も最大に
2.すべて自己株式交付:資本金は変わらず、登記不要。差益があれば資本剰余金に
3.併用(按分処理):登記される資本金は抑えつつ、剰余金を適切に反映可能
特に差損が生じる場合、会社の意思決定次第では通算処理と呼ばれる実務的に合理的な処理方法を採用するケースもあります。
まとめ:条文に惑わされず、構造で理解
会社計算規則14条は、一見すると複雑で読み解きにくい条文構造をしていますが、その基本的な仕組みは「出資方法の違いが資本金の増減にどう反映されるか」というシンプルな問いに基づいています。
実務では、資本金額、登録免許税、剰余金の取り扱いといった具体的な影響を見据えながら、適切な出資スキームの選定と会計処理、さらには登記の要否を判断することが求められます。
次回は、具体的な設例を用いて、「按分処理」と「通算処理」の違いや、差損の穴埋め方法を掘り下げていきます。
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本日は、自己株式を交付したら資本金は増えるのか?会社計算規則14条の基本と実務対応をテーマに解説いたしました。
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