監査役の監査範囲を会計に限定している場合、大会社化したらどうなる?
監査役の監査範囲の問題
会社が成長し、いつの間にか「大会社」の要件を満たしていた──そんなとき、実務担当者が戸惑いやすいのが「監査役の監査範囲」の問題です。
定款に「監査役の監査の範囲は会計に関するものに限定する」と書いてある。このままでも有効? それとも自動的に無効? 登記手続きは?
この記事では、監査役の監査範囲に関する定款規定と大会社化の関係を、会社法と登記実務の両面から整理します。
よくある実務上のギモン
非公開会社の中には、「監査役の監査の範囲を会計に限定する」旨を定款に定めている企業が少なくありません。
これは、業務監査まで求められない簡素な体制を選ぶための合理的な制度設計といえます。
しかし、資本金が5億円以上または負債200億円以上となり、会社法上の「大会社」に該当する場合、会計監査人の設置が義務となり、さらにその影響で監査役にも変更が及ぶことに──
「会計限定のままで良いの?」
「定款変更していないけど、監査役の任期は?」
「登記の原因日はいつにする?」
これらの疑問は、会社法と商業登記規則の交錯する領域にあります。
大会社と監査役の監査範囲に関する法的整理
会社法において、大会社は会計監査人を置く義務があります(会社法328条等)。
さらに、会計監査人を設置した会社では、監査役の監査の範囲を会計に限定する定款規定を設けることはできません(会社法389条参照)。
つまり、非公開会社であっても、以下の流れが生じます。
状況 | 内容 |
---|---|
元々 | 「会計限定の監査役設置会社」だった |
大会社化 | → 会計監査人の設置が義務に |
結果 | → 「会計限定の定款規定」は効力を失う |
このように、大会社化により法律上「定款による会計限定」は許されなくなります。
しかし、「定款が自動で書き換わる」わけではないため、会社が自ら定款変更をしていない場合にどう扱うか? が、実務上の焦点になります。
任期・定款変更・登記原因日の取扱い
会社法336条4項では、定款変更により監査役の地位に実質的変動が生じた場合、監査役の任期はその効力発生日に満了すると定めています。
ここで問題になるのが次のケースです。
大会社化して会計限定が法律上無効になったが、
会社として定款変更決議を行うのはしばらく後になった──
この場合、
・法的には、定款規定の効力は大会社化の時点で失われる
・しかし、実務上の登記原因日は「定款変更日」として登記されることが多い
というズレが生じます。
加えて、監査役が再任されたのか、それとも旧任期が切れて新任されたのかによって、登記原因(重任/再任/退任・就任)の記載も異なります。
この点の判断を誤ると、登記簿の履歴に齟齬が生じるため注意が必要です。
実務対応とまとめ
監査役の監査の範囲に関する定款規定がある会社が大会社化する場合、以下の対応をおすすめします。
対応項目 | 推奨対応 |
---|---|
定款確認 | 「会計限定」の文言が残っていないか確認 |
大会社化のタイミング | 決算書で確認。基準日や株主総会日とズレがある場合は要注意 |
定款変更 | 会計限定条項の削除を早めに行う(株主総会での決議が必要) |
登記原因日付 | 法務局との相談を要する。多くは「定款変更日」または「株主総会日」で処理される |
任期管理 | 会計限定が無効になったことにより、任期満了日が繰り上がる場合あり。重任・退任・新任の判断に注意 |
なお、実務では監査役の任期や登記原因を巡って、法務局の補正指示が入ることも少なくありません。
混乱や誤登記を防ぐためにも、大会社化の兆しがある場合は、あらかじめ監査役の監査範囲や任期、定款内容を精査しておくことが肝要です。
手続きのご依頼・ご相談
定款に「監査役の監査の範囲は会計に限定する」と明記している会社が、いつの間にか大会社になっていた──。
このような場合には、定款規定の効力が法律上失われ、監査役の監査範囲が自動的に「業務監査」に拡張されることとなります。
任期満了や登記原因の扱いも含め、制度の論点を正しく理解し、登記実務と整合を取った運用を行うことが重要です。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、千代田区の司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。