株主総会

株主総会招集通知に何を書く?記載事項・分量・実務の最適解とは

なぜ「招集通知の記載内容」が重要なのか?制度趣旨と法的位置づけ

株主総会を招集する際、会社は株主に対して「招集通知」を送付します。これは単なる連絡書ではなく、株主の議決権行使の前提となる重要書面です。
招集通知の記載内容が不十分であったり、誤解を招く表現があれば、株主の判断を誤らせるおそれがあり、ひいては株主総会決議の瑕疵につながることもあります。

招集通知の目的は「判断材料の提供」

株主にとって株主総会は、経営陣に対して意思表示をする貴重な場です。
しかし実際には、株主全員が総会に出席できるわけではありません。むしろ欠席者のほうが圧倒的多数です。

そのため、招集通知は「株主が書面や委任状で議決権を行使する際の情報源」としての役割が強調されます。

法的な根拠と記載義務事項

会社法では、招集通知に記載すべき事項として以下が定められています。

主な記載事項 説明
株主総会の日時・場所 開催の基本情報。特に開催日と曜日の誤記は致命的
会議の目的事項 決議事項・報告事項を含めて明記
議案の要領(上場会社) 議決権行使書との対応上、必要な詳細を記載
書面投票・電子投票の有無 任意適用であっても記載が必要
議決権の基準日 登録上の株主と議決権の関係を明確化


中小企業や非公開会社における実務的な難しさ

上場会社であれば、制度上のルールに基づいて招集通知の作成フローが確立していますが、非公開会社では形式の自由度が高いため、逆に「どこまで書けばいいのか」で迷うケースが後を絶ちません。
たとえば、以下のような迷いが現場ではよく見られます。

・「議案の詳細まで書くべき?それとも要点だけで良い?」
・「委任状で賛否を取る場合、どこまで丁寧に書くべき?」
・「参考書類は任意?作らないといけない?」

こうした疑問に対しては、法的な要請と実務上の目的(株主の理解促進)のバランスをどうとるかがカギとなります。

記載例のバリエーション:簡潔型 vs 詳細型

〜会社規模と株主構成によって最適解は異なる〜
株主総会の招集通知に記載すべき内容について、法律は一定の枠組みを示しているものの、記載の具体的なボリュームや書き方にまで踏み込んだルールは存在しません。とくに非公開会社では、招集通知の記載スタイルが会社によって大きく異なります。

ここでは、実務でよく見られる「簡潔型」と「詳細型」の2類型について、それぞれの特徴と注意点を整理します。

【簡潔型】必要最小限の情報のみを記載

例文
第1号議案 取締役1名選任の件
→ 定款に基づき、現任取締役の任期満了に伴い、1名の選任を行うものです。

特徴
・会社と株主との関係が緊密で、事前に議案内容の合意があるケースに多い
少人数の同族会社や、100%子会社でよく用いられる
・参考書類は添付せず、委任状も形式的なものにとどまる

注意点
・外部株主が存在する場合や、議案の内容に異議が出る可能性がある場合はリスクが高い
・内容が抽象的すぎると「議決権行使の前提を欠く」とされ、決議の瑕疵に発展するおそれがある

【詳細型】議案趣旨・背景・取締役候補の略歴まで記載

例文
第1号議案 取締役1名選任の件
→ 任期満了に伴い、下記の通り取締役1名の選任をお願いいたします。

【候補者】
氏名:山田太郎(再任)
生年月日:昭和50年1月1日
略歴:平成10年4月 ○○大学卒業
平成12年4月 △△株式会社入社
平成30年6月 当社取締役就任(現任)

特徴
・外部株主の理解促進や反対回避を目的とする中規模以上の会社に多い
・上場会社やIPO準備企業は、法定ではなくとも事実上必須
・「議決権行使書」による投票形式を採用する場合は、基本的に詳細型が求められる

注意点
・情報量が多すぎると、逆に株主が読む意欲をなくすおそれも
・外部公開されるリスクを見越し、機密性の高い情報は避ける工夫も必要

実務のポイント|迷ったら「株主にとって必要か?」で判断

「この記載、要る?不要?」で迷ったときは、「株主が議決権を行使するうえで必要な情報か?」という原点に立ち返ることが重要です。
また、招集通知の文面が曖昧だと、招集手続きの違法性が争われる事態(例:株主総会決議取消訴訟)にも発展しかねません。

委任状・議決権行使書との関係に注意

〜招集通知の記載が不十分だと、議決権行使が無効になることも〜
非公開会社においても、株主が出席せずに「書面で議決権を行使する」ケースは少なくありません。
このとき用いられるのが、委任状や議決権行使書です。
いずれも、株主の「意思表示」の手段となるため、招集通知との関係性を無視することはできません。

委任状・議決権行使書の違いとは?

区分 委任状 議決権行使書
制度的な位置づけ 代理権の授与 株主本人による意思表示
株主総会は開催されるか される される
提出先 原則として会社 原則として会社
記載内容 議案への賛否または「一任」など自由記述 法定記載事項(議案の賛否、期限、議決権数等)
上場会社での義務 任意 一定条件下で義務


実務で混同されやすい「兼用型」のリスク

とくに中小企業でよく見られるのが、「議決権行使書 兼 委任状」と題されたハイブリッド型の書式です。
この場合、以下のようなリスクが生じます。

誰が議決権を行使したのか不明確になる
・株主本人が賛否を記入しているのに、「代理人欄」があるため、会社側で処理に迷う
文言や構成が曖昧だと、招集通知との整合性を欠き、議決権行使の有効性が問われる

招集通知とリンクしている必要がある

委任状や議決権行使書で「各議案に賛否を示す」ためには、当然のことながら、事前にその議案内容が明確に株主に伝わっていなければなりません。

つまり、「招集通知の記載内容こそが、賛否判断の前提」となるため、
招集通知に記載のない議案に対して賛否を求めることは、実務上も法的にもアウトです。

たとえばこんなケースに注意

・招集通知には「定款変更について」とだけ書いてあるが、行使書では「○条を△条に変更」に対して賛否を問う
・委任状の書式では「代理人に一任」となっているが、議決権行使書としても処理している
・議案の内容説明が不十分で、株主から「よく分からないので無効では」と疑義が出る

こうした問題を防ぐためには、「招集通知・委任状・議決権行使書は一体のもの」として設計する意識が必要です

招集通知の記載ミス・紛らわしい表現と、その回避策

〜実務で多い落とし穴と、司法書士としてのリスクヘッジ提案〜
株主総会招集通知の作成において、明らかなミスや曖昧な表現が原因で、決議の瑕疵や登記の補正につながるケースは珍しくありません。
ここでは、司法書士の立場から見た「ありがちなNG例」と、それを避けるための表現例を紹介します。

よくあるミス①:開催日時・曜日の誤記

【NG例】「2025年6月30日(月)」と記載(※実際は月曜日ではない)
【リスク】信頼性の毀損にとどまらず、開催日の特定ができず決議の無効リスク

よくあるミス②:「議案の趣旨」が抽象的すぎる

【NG例】「第2号議案 定款変更の件」
【補正指示の例】「何条をどのように変更するのか明記してください」

よくあるミス③:報告事項を明記せずに済ませてしまう

【NG例】「報告事項については当日ご説明します」
【改善案】「第3号報告事項 計算書類の概要説明(内容は当日配布)」など、最低限の趣旨明示が望ましい

よくあるミス④:委任状や議決権行使書との齟齬

【NG例】議案が3つあるのに、行使書の選択欄は2つだけ
【問題点】「株主が正確な意思を表示できていない」と判断されるリスクがある

推奨される構成テンプレート(非公開会社向け)

【株主総会招集通知】
1.開催日時・場所
2.決議事項(各議案について)
  第1号議案:○○○の選任について(候補者情報を添付)
  第2号議案:定款○条の変更について(要点記載)
3.報告事項
4.議決権行使方法(委任状・議決権行使書・出席意思表示)

司法書士としてのアドバイス

非公開会社であっても、招集通知の記載が曖昧なために株主から疑義が出たり、補正が求められたりする例は後を絶ちません。
とくに株主構成が複雑な会社では、「誤解されない」「疑われない」文面が最も重要な防御策です。

手続きのご依頼・ご相談

招集通知の作成は「議決の有効性」を支える第一歩となります。
形式的に済ませず、株主の視点に立って記載内容を整備することが、トラブル回避にもつながります。
株主総会開催支援、会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、千代田区の司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。



本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

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