株主総会

株主総会の招集手続と書面決議の関係(第3回) 定時株主総会でも「書面決議」は使える?定時招集義務と319条の整理

定時株主総会でも書面決議は認められるのか?

会社法第296条第1項は、次のように定めています。

会社法第296条第1項
株主総会は、定時株主総会および臨時株主総会とする。定時株主総会は、各事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない。

この「招集しなければならない」という条文の文言が、319条の書面決議と矛盾するのではないか?と感じたことがある実務担当者も多いはずです。
ですが、結論としては「書面決議で定時株主総会の決議を代替することは可能」とされており、法務省もその立場を明確にしています。

法的整理:296条の「招集義務」と319条の関係

条文上の「招集」は、あくまで通常の株主総会開催を前提とした規定です。一方、319条は、株主総会を開催せずに決議をみなす特例規定と位置づけられます。
この関係性については、通達や実務解説書でも次のように整理されています。

「会社法第319条は、第296条の適用を排除する趣旨を含むと解され、全株主の同意がある場合には定時株主総会も招集不要とされる」(商事法務『会社法コンメンタール』など)

つまり、319条を使ってすべての議題を適切に処理すれば、実際に総会を開催しなくても「定時株主総会が開催された」と評価されるというのが法的な整理です。

100%子会社・株主1名の会社での取扱い

(1)株主が1名の場合
株主が法人1社だけという場合、319条の活用は極めて実務的です。以下のようなケースでは頻繁に利用されています。
・親会社の承認が得られており、議事に異議が出る可能性がない
・総会日程を調整するのが形骸化しており、定型的な議題のみを処理する場合
・会計監査人設置会社で、監査報告の遅れから備置期間を十分に確保できない場合

(2)メリット:柔軟なスケジューリングが可能に
書面決議では、提案日を基準として備置義務をスタートさせられるため、例えば監査報告書の提出が遅れていても、提案と同意が同日に行われれば、理論上その日1日で定時株主総会に相当する決議を完了させることが可能です。

「書面決議で処理した」ことの証明方法と実務書類

書面決議で株主総会を代替した場合でも、次のような社内書類を整備しておくことが望ましいです。

書類名 内容
株主提案書 決議事項を明記。同意日や決議日も記載
同意書 各株主が議案に賛同する旨を記載(署名・記名押印)
決議書(任意) 上記2点を添付した社内用「みなし決議報告書」

なお、法務局への登記申請にあたっては、「株主総会議事録」ではなく「書面決議書(319条)」を添付するのが原則です。

「総会は開催しないが議事録は残す」会社の例

実務上、「株主総会は開催しないが、あえて議事録を作成する」会社も存在します。これは社内監査や外部監査対応、後日の株主とのトラブル防止の観点から、書面決議の内容を再構成した議事録を補完的に保存しておくものです。
特に次のような会社では、形式的な総会議事録を残しておくことが多いです。

・上場企業の100%子会社
・上場準備中の企業(J-SOX監査に備える)
・外資系企業の日本法人(親会社からの説明責任)

まとめ:書面決議で「定時招集義務」は実質的に代替可能

本シリーズを通じて見てきたとおり、書面決議(会社法319条)は、通常の株主総会とは手続も趣旨も異なります。
しかし、法的には定時株主総会をも代替可能な正式な決議手段であり、実務上も柔軟性の高い制度として機能しています。

ただし、以下の2点だけは必ず守る必要があります。

・株主全員の書面等による明確な同意を得ること
・書面決議に必要な計算書類の備置義務を怠らないこと

手続きのご依頼・ご相談

本日は、株主総会の招集手続と書面決議の関係として、定時株主総会でも「書面決議」は使えるのかについて解説いたしました。
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本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

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