株式

株主に相続が発生したとき、株式の分散を防ぐには?相続人に対する株式売渡請求制度とその活用

株式の分散リスクに備える法的手段

非上場企業にとって、株式の安定的な保有は経営の根幹にかかわる重要課題です。特に、個人株主に相続が発生した場合、複数の相続人によって株式が細分化され、経営の安定性が損なわれるおそれがあります。本コラムでは、このような株式の分散リスクに備える法的手段として、会社法に定められた「相続人に対する株式売渡請求制度」を中心に解説します。

なぜ相続に備える必要があるのか?

相続による株式の承継は、会社の意思にかかわらず当然に発生します。
これは、株式が遺産の一部として「一般承継」されるためです(民法896条)。
特に譲渡制限付き株式であっても、相続は「譲渡」ではなく「承継」にあたるため、会社の承認を要しません。

結果として、会社に全く関係のない複数の相続人が株主として登場し、経営意思決定に関与するリスクが生じます。これを回避するには、相続が発生した場合でも会社の側で株式を引き取る「制度設計」が不可欠です。

相続人から株式を強制的に買い取るには?


「相続株式の売渡請求制度」の活用

制度の概要(会社法174条〜)
会社は、相続その他の一般承継によって株式を取得した者に対し、当該株式を会社に売り渡すよう請求することができます。これが「相続株式の売渡請求制度」です。

この制度を活用することで、相続による株式の分散を防ぎ、望ましくない相続人が経営に関与する事態を避けることが可能となります。

制度導入のための定款整備

この制度は、あらかじめ定款に以下の2点を明記しておく必要があります。

必要な定款規定 内容
株式の譲渡制限 株式を譲渡するには会社の承認が必要である旨(会社法107条)
売渡請求権の定め 相続人に対して株式の売渡しを請求できる旨(会社法174条)


実際の手続きの流れ

相続が発生した後に会社が売渡請求を行うには、次のような手続きが必要です。

① 相続の事実の把握
会社が相続発生を知った時点からカウントされ、そこから「1年以内」に手続きを行う必要があります(会社法176条1項)。
※相続人が登記名義人になる前から事実を知っていた場合は、その時点が起算点となります。

② 株主総会の特別決議
相続人から株式を買い取るには、当該相続人を除いた株主による「特別決議」(3分の2以上の賛成)が必要です(会社法309条2項、175条)。

③ 売渡請求の通知
決議に基づき、相続人に対して「○○株を会社に売り渡してください」という通知を発します(会社法176条1項)。

④ 買取価格の協議・裁判所申立
買取価格は、相続人と会社の協議で決定します。合意できない場合は、請求から20日以内に裁判所へ価格決定の申立てを行います(会社法177条2項)。

重要期限 内容
相続を知ってから1年以内 売渡請求の特別決議・通知
売渡請求から20日以内 裁判所への価格決定申立


売渡請求制度のリスクと注意点

「相続クーデター」リスクとは?
制度の適用対象はすべての株主です。
たとえば、創業者株主が亡くなった場合でも、少数株主が特別決議を主導し、その相続人を排除できてしまうことがあります。これを「相続クーデター」と呼びます。

このような事態を防ぐには、
・定款で売渡請求の対象株主を制限する(※現行法上、慎重に検討が必要)
・生前に株式を法人に移転させる、または特定承継(贈与・遺贈)により相続を回避する

といった対応も検討すべきです。

実務上のポイントとアドバイス

・相続発生後の迅速な調査(戸籍・遺言の確認)
・売渡請求の事前準備として株式鑑定書の用意
・定款変更と生前対策のセットでの導入が理想

相続による株式の分散は、非上場企業にとって重大な経営リスクとなりえます。
「相続株式の売渡請求制度」は、このリスクに備えるための強力な法的手段ですが、その導入・運用には慎重な設計と準備が求められます。
定款変更のサポートから、買取手続・鑑定書の取得・裁判所申立に至るまで、様々な検討が必要となります。

手続きのご依頼・ご相談

本日は、相続人に対する株式売渡請求制度とその活用について解説しました。
商業登記(会社法人登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。



本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

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