株式

定款に相続人に対する株式売渡請求制度を定めない方がいいケースを解説

売渡請求制度が逆手に取られるリスク

株主に相続が発生した際、少数株主による「相続クーデター」が起こるリスクがあることは、前回の記事でも詳しく解説しました。
相続人に対する株式売渡請求制度を定款に定めたことにより、株主に相続が生じた場合、売渡請求の決議において、相続人(=請求対象)は議決権を行使できません(会社法175条2項)。
そのため、残された少数株主だけで株主総会を開催し、相続人を排除する決議を成立させることが理論上は可能です。

典型的なリスク構造

例えば、以下のような会社を想定してください。

株主構成(相続前) 保有割合
創業者(オーナー) 90%
他の株主(A・B) 10%

この創業者が死亡し、株式を相続したのが創業者の子(=後継者候補)だったとします。
この場合、本来であればその子が経営を引き継ぐはずです。
しかし、残り10%の株主たちが売渡請求制度を悪用し、特別決議(3分の2以上)を成立させれば、その子は会社から強制的に株式を買い取られ、経営の場から排除されることになります。

つまり、
本来は経営承継を予定していた大株主の後継者が、少数株主の結託によって追い出されてしまう
これが「相続クーデター」と呼ばれる現象です。

相続クーデターが起きる条件

条件 内容
① 売渡請求の定款規定があること 定款に制度が導入されている
② 株主総会の特別決議が成立できること 残りの株主で3分の2以上の議決権を確保できる(相続人は議決権なし)
③ 会社に剰余金があること 財源規制(会社法461条)をクリアできる程度の利益がある

これらが揃えば、理論上、10%しか持っていなかった株主が経営の実権を握る構造が成立してしまうのです。

この制度を定めないほうがいいケース

以下のような場合は、あえて制度を定款に定めない(=導入しない)という選択も合理的です。

・創業者など特定の大株主に後継者が明確におり、その相続を想定した承継計画がある場合
・少数株主に関与されること自体に警戒感がある場合
・会社の支配権を後継者に確実に渡したい意図がある場合

また、制度を導入したとしても、相続発生後に速やかに定款変更を行い、売渡請求条項を削除するというテクニックも考えられます(※ただし、定款変更にも特別決議が必要なので、株式構成によっては不可能な場合もあります)。

予防策と実務的アドバイス

方法 解説
生前贈与や特定遺贈 特定承継にすれば制度の適用外となる(会社の承認も必要)
株式保有法人を使う オーナーの保有株式を法人に持たせれば、相続を回避可能
少数株主の議決権制限 種類株式で議決権を制限しておけばクーデターの土台が崩れる


実務でよくある組み合わせは「生前贈与 × 法人保有」

最も実務的に多いのが、

・オーナー個人から持株会社へ贈与 or 売却
・その後、後継者に対して当該法人の支配権を順次移転(例:株式の贈与)

という二段階スキームです。
これにより、株式は法人が持ち、経営権は後継者が握るという構造が作れます。

定款規定の導入は「慎重に・戦略的に」

相続株式の売渡請求制度は、有効なリスク対策である一方で、「使われ方」や「相続構造」次第では、かえって経営を不安定にしかねない両刃の剣です。
導入する際は、単に「分散防止になるから」と機械的に定めるのではなく、

・現在の株主構成
・想定される承継者
・将来の相続時の意思決定構造

などを総合的に見据えた戦略的設計が不可欠です。

手続きのご依頼・ご相談

当法人では、定款整備や議決権設計を含めたストラクチャリングの支援を行っております。後継者戦略の一環として、相続対策を検討中の企業様は、お気軽にご相談ください。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。



本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

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