職務執行者制度はなぜ“扱いにくい”のか?合同会社における法人社員の限界と法改正の検討論点
合同会社と職務執行者という特殊な制度
合同会社は、柔軟な機関設計が可能であり、近年では外資系企業やベンチャーによる設立も増加しています。
その中で、法人が社員(業務執行者)となるケースは実務でも多く見られますが、そこに登場するのが「職務執行者」という特殊な制度です。
この職務執行者制度は、法的には整備されているものの、登記・運用の現場では“扱いづらい”制度と感じる司法書士や実務家が多いのが実情です。
本稿では、その背景と、今後の議論の方向性を整理します。
制度の基本構造(会社法598条)
法人が業務執行社員となる場合、会社法598条1項により、「その法人が業務を執行するために職務を執行する者を定めなければならない」とされています。
この職務執行者は、法人社員に代わって現実の業務執行を行う“自然人”であり、法人の内部機関にすぎません。
しかし、この制度には以下のような構造的課題があります。
実務で感じる“職務執行者制度の歪み”
問題点 | 解説 |
---|---|
登記要件と実務運用のギャップ | 職務執行者は代表社員が法人である場合のみ登記対象。非代表社員の場合は登記不要だが、内部的には実質的な業務執行者であることが多い。 |
議事録に求められる形式主義 | 登記官によって、選任議事録の様式や表現に対する要求がまちまちであり、事実上“登記に耐える文案”を都度作ることが求められる。 |
社員間における関与の不明確性 | 他の社員に対し、誰が業務執行権限を持っているのか明示されない。職務執行者の情報が対外的に公開されないことで、利害調整が困難になるケースも。 |
内部的には“誰が意思決定したのか”が不透明に | 複数の職務執行者を選任した場合の議決ルールが明確でないまま運営されることが多く、内部統制上のリスクとなる。 |
制度的限界と今後の論点
このような実務的課題を踏まえると、今後以下のような論点が法改正や通達整備のテーマになる可能性があります。
1.職務執行者の登記事項拡大
現在は代表社員が法人である場合のみ登記対象ですが、法人社員すべてについて職務執行者の登記を義務化することで、透明性を高める議論があり得ます。
2.定款への記載の許容
会社法上は選任は法人の専決事項とされており、定款に記載しても登記添付書面として認められませんが、定款記載を補完的に認める運用が望まれるという声もあります。
3.議決ルールの標準化
複数職務執行者の意思決定方法(多数決/代表指名など)について、会社法又は通達での補足的明示が検討される余地があります。
実務家ができる対応策
制度の改善を待つだけでなく、実務家としては以下の対応が有効です
対応策 | 解説 |
---|---|
内部規程・取締役会規則の整備 | 職務執行者の役割分担、代理権限、意思決定ルールを明文化 |
社員間契約や合意書による補完 | 複数社員がいる場合には、業務執行の範囲・情報共有義務を文書化 |
定款作成時の将来見通しの共有 | 職務執行者の増減や変更を想定した定款条項の整備(例:職務執行者の資格要件や上限数など) |
まとめ:柔軟さゆえの不完全性と、実務家の工夫
・職務執行者制度は、合同会社の柔軟さを活かす一方、登記・運用面で多くの不明確性を内包
・法的には整理されているものの、実務上は「余白の多い制度設計」としての扱い
・今後、法人社員を活用した組織設計が増加する中で、制度の明確化・運用指針の整備が期待される
・それまでは、司法書士・専門家が「設計段階での工夫」と「文書整備」によって対応することが求められる
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職務執行者制度はなぜ“扱いにくい”のか?合同会社における法人社員の限界と法改正の検討論点について解説しました。
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