代表取締役が急逝したら会社が止まる?取締役1名体制のリスクと予防策
取締役1名体制のリスクと予防策
平成18年に施行された新しい会社法により、現在は、取締役1名のみで会社を運営することが可能となり、意思決定の迅速化、役員報酬の削減、運営コストの軽減などから、多くの会社が、取締役1名のみで会社を運営しています。
しかし、便利で効率的な反面、この「取締役が1名だけ」という体制には、想定していない事態における大きなリスクが潜んでいることも事実です。
唯一の取締役が不在になったら
会社の経営は、取締役によって行われます。では、その唯一の取締役が急逝した場合、何が起きるのでしょうか?
会社の運営そのものが一時的に「ストップ」する可能性があります。
なぜなら、会社法では、株主総会の開催を決定できるのは取締役に限られているため、取締役が不在では新しい取締役を選ぶための株主総会を開くこともできないという事態に陥ってしまうのです。
これは特に家族経営の会社や中小企業で、代表取締役1名のみが登記されているケースで起こりがちです。
「株主全員の同意」で対応できるか
株主全員の書面による同意があれば、株主総会を開催せずに取締役を選任することも可能です(会社法第319条)。
しかし、株主が複数いて連絡が取れない、関係が疎遠になっている、意見が一致しない…といった事情があると、この方法では解決できません。その場合は、裁判所に申し立てて仮の取締役(職務代行者)を選任してもらう必要があります(会社法第346条第3項)。
裁判所による選任には手続きや審査期間が必要となるため、その間、会社の経営判断や取引継続に支障が出ることも少なくありません。
取締役が欠けたときの備え「補欠取締役」という制度
このようなリスクを回避するために有効なのが、「補欠取締役」の選任です。
補欠取締役とは、現職の取締役に欠員が生じた場合に備えて、あらかじめ株主総会で選任される予備の取締役のことです。取締役が退任、死亡、辞任などで不在になった場合に、自動的に就任することができます。
ただし、注意点もあります。
補欠取締役の効力期間は原則として最初の定時株主総会の開催時まで
継続的に有効としたい場合には、定款で効力の延長を定める必要があります
つまり、補欠取締役の制度を有効に機能させるには、定期的に株主総会で選任し直すか、定款の工夫が必要になります。
取締役1名体制の会社にこそ、備えが必要
「人件費を抑えたい」「経営判断を迅速に行いたい」という理由から、取締役を1名にする会社は多いですが、その体制には経営停止リスクがつきまといます。
実際に、唯一の取締役が亡くなった後、誰も会社の手続きを進められず、銀行口座も凍結されたまま、重要な契約や支払いが滞るケースも少なくありません。
このような事態を避けるためには、
・少なくとも1名、補欠取締役を選任しておく
・必要に応じて、2名以上の取締役体制にする
・定款に補欠取締役の有効期間の規定を設ける
といった対策を事前に講じておくことが重要です。
手続きのご依頼・ご相談
本日は、取締役1名体制のリスクについて解説しました。
本コラムをまとめますと、
・取締役1名体制は効率的だが、突然の不在時には大きなリスクがある
・株主全員の同意が得られないと、新たな取締役を選任できない可能性がある
・補欠取締役制度を活用することで、空白期間を防ぐことができる
取締役の欠員リスクは「起きてからでは遅い」問題です。特に経営者自身が唯一の取締役である会社では、ご自身の不測の事態を想定し、今のうちから備えておくことが、会社と家族、従業員を守るためにも必要な経営判断となります。
当事務所では、定款変更のサポートや補欠取締役選任に関する手続きのご相談も承っております。
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