役員変更

役員の辞任を証する書面として辞任届以外を用いることは可能か?辞任した役員が辞任届の提出を拒む場合

株式会社と役員等との関係

会社の役員と会社の関係は、委任契約に基づくものであり(会社法330条)、役員が辞任の意思表示をすることで、委任関係は終了します(民法651条1項)。
また、辞任の意思表示は会社に到達した時点で有効に成立し、原則として撤回することはできません(民法540条)。
しかし、登記実務においては、辞任の事実を客観的に証明する書類の提出が求められるため、通常は辞任届を添付する必要があります。
では、辞任の意思表示をした役員が、辞任届の作成に協力しない場合、辞任を証明するために他の書類を用いることは可能なのか、解説します。

会社法における辞任の効力発生

取締役や監査役の辞任は、会社に対する一方的な意思表示であり、会社に到達した時点で法的効力を生じます(民法651条1項)。
つまり、辞任届が提出されなくても、役員が辞任の意思を会社に通知し、その意思が会社に到達していれば、法律上は辞任の効力が発生します。また会社は、登記の有無にかかわらず、実態的に取締役でない以上(当該役員が権利義務役員でもない以上)は、当該役員に対して報酬を支払う義務もないと考えられます。
しかし、役員の退任に伴う登記をするに際して、商業登記法では「退任を証する書面」の添付が求められており(商業登記法54条4項)、実務上は辞任届を提出しなければ辞任の登記が認められないケースが一般的です。
では、辞任届がない場合、どのような対応が可能なのでしょうか?

辞任届がない場合の対応

①株主総会議事録・取締役会議事録
法務局の過去の実務では、以下のような場合に「辞任を証する書面」として認められたケースがあります。

・株主総会議事録に「取締役が辞任を表明した」との記載がある場合
昭和36年10月12日民四第197号民事局第四課長回答:「株主総会議事録に辞任の意思表示が記載されている場合、退任を証する書面として援用可」
旬刊商事法務第1225号にも同様の解説があり、この見解が支持されてきました。

・取締役会議事録に辞任の事実が記録されている場合
東京法務局 商業法人登記速報第144号(平成8年8月20日):「取締役が株主総会を欠席していても、議事録の記載から辞任の意思と日付が判明すれば、受理しているのが実情」
ただし、平成8年以降、この取扱いが厳格化され、辞任した役員が株主総会を欠席している場合は、辞任届の代わりとして認められなくなった との指摘があります。

② 会社とのメールや書面でのやり取り
民事月報平成21年8月号「商業・法人登記実務の諸問題(1)」に掲載された設例
「取締役が辞任の意思を示した電子メールを印刷し、会社の代表取締役が原本証明を付して提出した場合、辞任を証する書面として認められるか?」

この設例に対する解説では、一般に、この辞任による退任を証する書面には、辞任の意思表示の主体である者の作成に係る辞任届の原本が該当するものとして取り扱われている。したがって、設例の書面は、奥書きした代表取締役が作成した書面に過ぎず、辞任の意思表示の主体である当該代表取締役が作成した書面ではないから、これを辞任を証する書面たる辞任届と見ることはできないことになる。
とされている。
しかし、上記①の議事録についても、辞任の意思表示をした者自身が作成した書面でないことについては同様であるから、辞任の意思表示をした者自身が作成したものでないとの一事をもって、一概に認めないとするのは相当でないとしていることから、結局は「これを証する書面」であるかどうか個別判断ということになります。
民事月報平成21年8月号「商業・法人登記実務の諸問題(1)」においては、上記解説に続き、当該電子メールの記録内容を印刷した書面の記載内容が真実当該取締役により辞任の意思表示がされたことを担保することができるものであるとともに、辞任の意思表示を会社の代表者が証明することができるものであれば、これを商業登記法第54条第4項に規定する書面として取り扱うことも可能と考えられる。としている。
もっとも、どのような場合にこのような要件を満たすことになるのかについて一律に基準を示すことは、その性質上極めて困難であることから、個別具体的な事案への対応においては、後日紛争を防止し商業登記の真正を担保するという観点から、辞任をした者が署名又は記名押印をした辞任届を添付書面として提出することが望ましいのはいうまでもありません。

解任手続きの検討

辞任届の作成の協力が得られない場合は、辞任届を作成しないことを理由に解任手続きを検討するのも1つの手段となりますが、任期中の報酬支払い義務が発生するリスクがあるため慎重な判断が必要となります。

手続きのご依頼・ご相談

本日は役員の辞任に関する書面について解説しました。
会社法人登記・商業登記に関するご依頼・ご相談は司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。



本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

ご相談・ご依頼はこちら
お問い合わせ LINE

ご相談・お問い合わせはこちらから