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医療法人の対立防止に有効な公正証書の作成とそのメリット

医療法人の対立防止に有効な公正証書の作成とそのメリット


医療法人の内部対立を防ぐための実践的アプローチと解決策

医療法人は、法人運営における財産や経営の権限が複数の関係者に分かれているため、内部での対立が生じやすい組織形態です。親族経営が多いことや、利益分配に制約がある非営利法人としての性質も加わり、特に財産管理や意思決定の場面で対立が発生しやすくなります。本記事では、医療法人の内部対立を防ぐための具体的なアプローチや解決策について解説します。

1. 役割と権限の明確化

医療法人内での理事や役員の役割や権限を明確にすることで、誰がどの範囲まで意思決定を行えるかがはっきりし、無用な対立を避けることができます。職務分掌や役職ごとの権限を明文化し、関係者が同じ基準で役割を理解できるようにしましょう。
たとえば、経営に関する重要事項については理事全員の同意を必要とし、日常的な運営は代表理事が決定する、というような分担を明確にすることで、業務範囲が整理され、役割の重複によるトラブルを減らすことができます。

2. 意思決定プロセスの整備

医療法人において重要な意思決定がなされる場である理事会や運営会議では、あらかじめ定めた意思決定プロセスを整備することが対立防止に効果的です。議決方法や意思決定の優先順位を明確にしておくと、トラブルの防止に役立ちます。
意思決定プロセスの整備の例として、次のようなルールを導入するとよいでしょう:

・議題の事前共有:会議前に議題を共有し、準備を行うことで円滑な意思決定が可能となります。
・決議方法の明確化:過半数での決定か全会一致が必要かなど、決議方法をあらかじめ規定しておく。
・議事録の作成と共有:意思決定の経緯を記録し、全員に共有することで透明性を高める。


3. 定款や規程の整備

定款や規程に、医療法人の基本的なルールや方針を定め、関係者間での認識を統一することが大切です。利益相反行為の回避方法や財産の管理に関するルールを明記することで、法人運営のガイドラインとして機能させることができます。
たとえば、利益の扱いや報酬の分配について定款で明文化しておくことで、後からの変更や争いを防ぐことができます。明文化されたルールに基づいて運営することで、理事や役員の意思決定の基準が統一され、トラブルが生じにくくなります。

4. 公正証書の作成

医療法人の関係者間での合意事項を「公正証書」として作成することも対立防止に効果的です。公正証書は法的効力が強く、関係者間の合意事項を公証役場で認証するため、対立が生じた際にもガイドラインとして機能します。

作成する公正証書の種類・名称

一般的に「合意契約公正証書」や「経営協定公正証書」を作成します。具体的には次のような名称が用いられることが多いです。

①経営協定公正証書
医療法人内での経営や運営に関する取り決めをまとめたもので、経営方針や意思決定権、財産の管理についてのルールを定めた公正証書です。

②役員合意契約公正証書
理事や役員など、医療法人内の役職者間での合意内容を明文化したものです。特に権限や役割、意思決定プロセス、退任や後継者の選定について定める場合に適しています。

③事業運営に関する合意書公正証書
医療法人の具体的な運営や事業の方針に関する合意内容を定める際に使われることがあります。法人運営全般に関する詳細な取り決めを盛り込むことが可能です。

正式な名称は内容や弁護士・司法書士のアドバイスに基づき設定できますが、上記のような名前で作成することが一般的です。

公正証書に盛り込みたい内容の例

1. 役割と権限の明確化
・各理事や役員の役割や責任範囲を具体的に記載します。
・代表理事、専務理事などの具体的な役職に応じた権限と義務を明確にします。
たとえば、経営方針の決定権、資金の使用権限など、業務の重要な部分における権限をどのポジションが持つかを明示します。
2. 意思決定プロセス
・大きな決定(予算、投資、重要な人事など)については、どのような意思決定プロセスで進めるかを定めます。
・決議が必要な事項や決議の方法(例えば、過半数の同意が必要な事項、全会一致が必要な事項)を明確にすることが重要です。
・定期的な理事会の開催や決議事項の記録方法についても規定します。
3. 出資や財産の取扱い
・医療法人の財産や利益の使途に関する取り決めを明確にします。例えば、利益の分配方法や、設備投資の承認手続きなどについて記載します。
・出資者の権利や、万が一の事業終了時における財産の取り扱いなども盛り込むと、金銭面でのトラブル防止につながります。
4. トラブル発生時の対応方法
・トラブルや意見の対立が生じた場合にどう対処するか、例えば第三者による調停や、外部の法的な仲裁機関の利用など、対応方法を明記します。
・具体的な解決手順や、合意が得られなかった場合の最終的な判断基準を設定することが重要です。
5. 退任や解任、後継者に関する事項
・役員の退任や解任に関する取り決め、後継者の選定プロセスについても明記しておくと、将来的なトラブルを避けることができます。
・後継者が事業を引き継ぐ際の条件や手続きを具体的に記載します。
6. 秘密保持および競業避止に関する事項
・退職後や退任後の秘密保持義務や競業避止義務についても規定します。特に、医療法人のノウハウや顧客情報の漏洩防止に役立ちます。

これらのポイントを含めた公正証書を作成することで、医療法人の内部ルールが明確になり、トラブルの際に合意内容に基づいた円滑な対応が可能になります。意見の対立が生じた場合にも取り決めに従って対応できるようになります。

公正証書の作成のポイント

公正証書の作成には、公証役場で公証人に依頼する必要があります。
司法書士に相談しながら条項を整理しておくと、よりスムーズに進められるでしょう。

5. 外部の専門家によるサポート

司法書士や弁護士、税理士など、医療法人運営に詳しい専門家のサポートを受けることで、対立が深刻化する前に適切な助言を得ることができます。第三者の客観的な視点からアドバイスを受けることで、全員が納得できる方向性が見出しやすくなります。
専門家を交えて運営を見直すことは、法人全体のガバナンスを強化し、トラブル防止に役立ちます。また、後継者選定などの課題にも、第三者の意見を取り入れることでより公平な選定が可能です。

6. 定期的な法人内ミーティングの実施

医療法人内の関係者が現状を把握し、意見交換ができるよう、定期的なミーティングや報告会を実施することも対立防止に効果的です。法人の経営状況や今後の方針を共有することで、法人運営に対する理解が深まり、関係者間での信頼関係が強化されます。

手続きのご依頼・ご相談

医療法人が抱える対立やトラブルは、法人の特性上発生しやすいものですが、役割と権限の明確化、定款や規程の整備、公正証書の作成、外部専門家のサポートといった対策を講じることで、対立の発生を未然に防ぐことができます。法人内の関係者が法人運営に対する責任を共有し、透明性を高めることが、安定した法人運営のための鍵となります。
医療法人内でのトラブルを防ぎ、円滑な運営を実現するために、ぜひこうした実践的な対策を検討してみてください。
会社法人登記(商業登記)や公正証書作成などに関するご依頼・ご相談は司法書士法人永田町事務所へお問い合わせください。



本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

債務整理・商業登記全般・組織再編・ファンド組成などの業務等を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

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