代表権の瑕疵・濫用と民法107条
代表権の瑕疵・濫用と民法107条
代表権の濫用
会社法349条1項では、取締役は会社を代表することが定められている。また、同4項では、代表取締役の包括的権限が定められている。
しかし、代表取締役が自己又は第三者の利益のためにその権限を利用した場合は代表権の濫用に当たる。
例えば、第三者の振り出した約束手形について取締役会の承認を経ずに会社を代表して裏書を行った場合、利益相反取引に当たり、かつ、代表権の濫用に当たる。
判例では、権利の濫用に当たる場合であっても、その取引行為は原則有効であるが、相手方が代表権取締役の真意を知り、又は知るえた場合は無効となるとしている(最判昭和38年9月5日民集第17巻8号909頁)。
また、取締役が、取締役会の決議を経てすることを要件とする行為を、右決議を経ないでした場合は、代表権の瑕疵であるとされ、その行為は無効となる。例えば、競合取引・利益相反行為に当たる取引を行うに当たっては、「重要な事実」の開示をし、株主総会(取締役会設置会社の場合であれば取締役会)の承認を得なければならない。
しかし、その行為が取引行為である場合、原則有効となる。なぜなら、会社法349条5項では、取引の安全を図るため、第三者保護規定が設置さている。ゆえに、右行為が取引行為である場合、相手方である第三者を保護することを要する観点から、右決議を経ないでした取引は、原則有効とされる。判例では、代表行為の瑕疵に当たる場合、相手方が右決議を経ないでしたことを知り又は知り得た場合に限って無効となる(最判昭和40年9月22日民集第19巻6号1656頁)。では、判例によるこのような結論は、いかなる法理によって導き出されているのであろうか。
判例で見る代表権の瑕疵・濫用
まず、判例では、代表権の瑕疵・濫用は「代理権の濫用」と同様のものであるとの解している。したがって、無権代理行為における旧民法の93条但書を類推適用し判断している。判例では、代表取締役の会社に対する背任的な真意や経済利益を自己に収める底意、取締役会を経ていないなどの手続き上の瑕疵などについて、相手方が悪意・有過失である場合、当該行為における代表取締役の代表権は認められず、その法律行為は効力を生じないものであると解するのが相当であると判断している。
旧民法下においては、代表権の濫用を直接定める規定は存せず、93条但書が類推適用されていた。しかし、2020年民法改正によって107条の代理権の濫用を直接定める規定が新設された。したがって、代表権の濫用においても今後は、107条の規定が類推適用されるべきであるとするのが通説となっている。ゆえに、相手方が悪意・有過失であった場合、代表取締役の行為は無権代理行為であることが認められ、代理権を有さずに行った行為と判断される。しかし、ここでは、善意・無過失であった場合の規定は述べられていない。なぜなら、権利の濫用は、原則、有権代理行為であるとされているからである。よって、相手方が、善意・無過失の場合、代理権の規定である民法99条が適用されることとなり、代理人のした行為は本人に帰属することとなる。ゆえに、代表権の瑕疵・濫用についても、民法107条が類推適用されるとするならば、相手方が善意・無過失であった場合、民法99条が適用され、代表取締役のした行為は会社に帰属することと考えるのが妥当となる。
学説の見解
ここで述べておきたいのが、学説の見解である。会社法上の通説では、相手方の悪意・有過失に限らず、代表取締役の行った行為は権限の範囲内であるとしている。しかし、悪意・有過失である相手方が会社に対し権利を主張するのは信義則に違反し、また、権利の濫用であるとする説が有力となっている(信義則説)。いわゆる結論事態は、判例と同じものとなるが、相手方が悪意・有過失であっても有権代理であるとする点で大きく異なってくる。したがって、この説を採用するならば、107条の適用は不相応となる。
代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。
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本日は代表権の瑕疵・濫用と民法107条について解説しました。
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