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取締役の第三者に対する責任、善管注意と任務懈怠



取締役の第三者に対する責任


善管注意と任務懈怠

 会社の業務執行に関する意思決定を行う取締役は、会社の最高責任者である。取締役と会社の実質関係は委任関係であり、会社のためにその権限を行使する上で善管注意義務を負う(民法643条以下・民法644条)。
善管注意義務とは、「善良な管理者の注意義務」であり、社会通念条又は客観的に見て当然に要求される程度の注意を払う義務である。また、取締役は会社の利益になるように努める必要があり、自己の利益を優先させてはならないとされている(会社法355条)。
したがって、これらの責任に対する任務懈怠が認められた場合、原則、過失責任を、自己のためにした利益合判行為に関しては無過失責任を負うこととなる。これらの責任は、総株主の同意によって免除することができる。ここで問題となるのが、第三者に対する責任である。本来なら取締役は会社との委任関係であり、第三者には民法709条の不法行為によらなければ責任を負わない。
しかし、会社法429条1項では、第三者に生じた損害を賠償することが定められている。
これは、第三者保護のための規定であり、取締役の任務懈怠が認められれば、悪意又は重大な過失が存するとされ、取締役はその責任を負うこととなる。では、会社法429条1項の法的性質と取締役が負う責任の範囲に関し、判例では如何に判断しているのであろうか。

判例でみる役員の賠償責任

 判例(最判昭和44年11月26日民集第23巻11号2150頁)は以下のような事件である。F工業株式会社の取締役Dは、会社の業務の一切を他の取締役であるEに任せきりにし、EはF工業を代表してXから原材料を買い、その代金支払いのためにD名義の約束手形を振り出した。しかし、この約束手形が不渡りとなり、XはDに対して損害賠償請求を提起した。ここでは、会社法429条1項の法的性質と役員などが負う損害賠償の範囲が争われた。
判例では、会社法429条1項の法的性質は、特別の法定責任であるとしている。不法行為に基づく損害賠償請求は、被害者たる第三者側に対し取締役の故意または過失についての立証責任が課される。しかし、429条1項は、第三者保護を目的としており、第三者は任務懈怠に対する悪意・重過失を立証すればたり、不法行為責任とは異なる性質にあるとしている。
 また、判例では、取締役が負う損害の範囲は、間接損害(会社が損害を被った結果、第三者に損害を生じた場合)であるのか、直接損害(直接第三者が損害を被った場合)に関わらず、任務懈怠と第三者との損害との間に相当な因果関係が存すればその責任を負うべきであるとし、その責任の範囲を広く認めている。
 このように、会社に対する責任だけではなく、第三者に対しても任務懈怠が認められれば、取締役はその責任を負わなければならない。近年では、2019年に成立した「会社法の一部を改正する法律」により、社外取締役制度が普及している。社外取締役であり、具体的な業務執行を負わない立場であっても、取締役としての善管注意義務、又は、他の取締役を監督する義務を負うことになり、任務懈怠が認められればその責任を負わなければならない。そこで、会社法では非業務執行取締役などに対しての責任限定契約が定められている。このような制度を利用し、賠償範囲を確約した委任契約によって、社外取締役としての任務を遂行する上でのリスクを予見することが可能となる。

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本日は取締役の第三者に対する責任について解説しました。
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