相続、遺産承継業務

共同相続詐害行為取消権を解説



共同相続詐害行為取消権を解説


詐害行為取消権

民法では、債務者が、債権者を害することを知りながら自己の財産を処分することは、禁止されています。
債権者には、このような行為を取り消す権利が認められており、これを詐害行為取消権といいます(民法424条)。
例えば、債務者Aが債権者Bから1000万円のお金を借りたとする。その後、Aが、1000万円相当の価値のある甲土地を、第三者Cに無償で贈与したとする。この際、Aには甲土地以外にも財産があり、甲土地をCに贈与しても、Bへの返済できなくなる心配がなければ問題はない。なぜなら、Bは自己の財産を自由に処分する権利を有しており、Bにはそれについてとやかく言う権利は認められないからである。
しかし、Aに甲土地以外に財産がなく、甲土地を失えば無資力となってしまう場合は話が変わってくる。なぜなら、甲土地の贈与はAの財産を減少させるため、Bに対する詐害行為となる可能性があるからだ。そこで、民法は、このような場合において、Bに詐害行為取消権を認め、自己の財産を守る手段を与えているのである。

相続は詐害行為取消の対象となるか?

では、共同相続を詐害行為取消の対象とすることはできるのであろうか。
まず、債務者Aが債権者Bに1000万円借りているとする。Aの父親が資産家であり、Aがその財産を相続した時にBへ返済すると約束していたとする。しかし、実際にAの父親が死亡し、相続が起きた時も、Aからの返済はなく、さらに、Aが意図的にBへの返済を逃れる為に相続していなかったとする。このような場合、Bは詐害行為取消権を行使して、1000万円を回収することができるのであろうか。判例では、遺産分割協議によってAの相続をゼロにしたのか、Aが相続放棄をしたのかによって、詐害恋取消権の対象となるかの判断を分けている。

遺産分割協議の場合

まず、遺産分割協議でした遺産分割の場合、判例では、「共同相続人の間で成立した遺産分割は、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産について、その全部又は一部を、各相続人の単独所有とし、又は新たな共有関係に移行させることによって、相続財産の帰属を確定させるものであり、その性質上、財産権を目的とする法律行為であるということができるから、詐害行為取消権の対象となり得る(最判平成11年6月11日民集第53巻5号898頁)」としており、詐害行為取消権を認めている。

相続放棄をした場合

しかし、Aが相続放棄をした場合、Bに詐害行為取消権は認められていない。判例では、「相続の放棄のような身分行為については、民法四二四条の詐害行為取消権行使の対象とならないと解するのが相当である。なんとなれば、右取消権行使の対象となる行為は、積極的に債務者の財産を減少させる行為であることを要し、消極的にその増加を妨げるにすぎないものを包含しないものと解するところ、相続の放棄は、相続人の意思からいつても、また法律上の効果からいつても、これを既得財産を積極的に減少させる行為というよりはむしろ消極的にその増加を妨げる行為にすぎないとみるのが、妥当である。また、相続の放棄のような身分行為については、他人 の意思によつてこれを強制すべきでないと解するところ、もし相続の放棄を詐害行為として取り消しうるものとすれば、相続人に対し相続の承認を強制することと同じ結果となり、その不当であることは明らかである(最判昭和49年9月20日民集第28巻6号1202頁)」としている。身分行為とは、婚姻や離婚などと同じように、身分の取得・変動を生ずる法律行為である。したがって、身分行為の一つである相続放棄は自由意志に委ねるべきであり、それを強制することは許されない。

遺産分割か相続放棄かで結論は変わる

このように、共同相続が詐害行為取消権の対象となるかは、債権者が遺産分割協議でした遺産分割によるものなのか、相続放棄なのかで変わってくる。債務者が、遺産分割協議でした遺産分割による場合、債権者は詐害行為取消権を行使することができる。しかし、債務者が相続放棄をした場合、相続放棄は身分行為なので、詐害行為取消権を行使してそれを妨げることは許されていないのである。

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本日は相続における詐害行為取消権について解説しました。
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