相続回復請求権 -法務担当者向け基礎知識-
相続回復請求権
民法884条に「相続回復請求権」についての規定があるのですが、この条文は相続回復請求権が時効によって消滅することを規定しているのみで、他に相続回復請求権に関する規定は民法には存在しません。
そのため、相続回復請求権は相続に関する分野のなかでも難解な分野となっています。
真正相続人と表見相続人
まず、相続回復請求権についてですが、本来相続人となるべき「真正相続人」と、相続する権利がないのに相続人となっている「表見相続人」がいたとします。
そして、表見相続人が相続をしてしまった場合、もちろんのことですが、本当に相続すべき人が相続するべきであり、相続する権利がない人が相続することはおかしなことです。
表見相続人は、そもそも相続人ではないわけですから、本当の相続人の権利を侵害していることになります。
そこで、真正相続人が、表見相続人に対して自分の相続の権利を返してもらう、または、自分が相続すべきだった範囲の権利を回復させることを請求する権利を相続回復請求権といいます。
相続人ではない人が相続人だといって相続している事例というのは想像しにくいかもしれませんが、例えば、実の兄弟だと思っていた弟が、亡くなった父親の子ではなかった場合などが考えられます。まったく関係のない人が相続人として相続している場合のほかにも、表見相続人といわれる状態があります。
それは共同相続人がいる場合です。相続人が2人いたとして考えてみます。2人とも相続人ですから、一見すると、表見相続人というワードとは無関係なように思われますが、自分が相続できる範囲を超えて相続した場合にも、その者は表見相続人になるのです。
例えば、弟が他人の子として出生届がされその他人の下で育てられていたため、自分ひとりが相続人だと思い相続財産の全部を相続した場合、弟の相続分を侵害している事になります。その場合、弟は相続財産を取得した兄を表見相続人として相続回復請求権を行使することができるのです。
実際には、弟は「相続財産請求権を行使する」とは訴えずに、相続財産が不動産であれば「所有権に基づく物権的請求権」を根拠に訴訟を提起します。
ここで冒頭に出てきた民法884条が問題となるのです。真正相続人が自分の相続権が侵害されていることを知ってから5年を経過している場合、表見相続人は民法884条を基に、相続回復請求権の消滅時効を援用することができます。
ただし、この場合の相続回復請求権の消滅時効を援用できる表見相続人は、判例によって、善意(相続権を侵害しているということの認識がない)、かつ合理的事由(自分が相続人であると信ずるに足る事由)が存在している場合に限るとされています。また、判例は、表見相続人が善意かつ合理的事由の存在を立証しなければならないとし、民法884条の消滅時効を認めることにつき厳しい条件を設けています。結論としては、民法884条は存在するが、この条文が適用されるためには相当厳しいハードルがあるということです。
永田町司法書士事務所