資本金の額の増加

株主割当による増資で「総数引受契約」は使えるのか?手続きの選択ミスに注意

株主割当と総数引受契約

募集株式の発行実務では、スケジュールを優先して総数引受契約を使いたいという相談が少なくありません。
とりわけ、親会社が100%出資している子会社で増資を行う場面では、
出資者は実質的に親会社しかいない→であれば、総数引受契約で一気に処理したい→契約日と払込期日も同日にしたい
という発想になりやすいところです。

しかし、ここで注意しなければならないのが、株主割当と総数引受契約は制度の発想が異なるという点です。
結論からいえば、株主割当において総数引受契約を利用することはできないと考えるのが実務上安全です。


株主割当では、総数引受契約は使えない

総数引受契約は、申込みと割当てを契約によって一体的に処理する方式(契約行為)です。
これに対し、株主割当は、会社が株主に対して募集株式の割当てを受ける権利を与える方式(単独行為)です。

両者は似ているようで、制度の組み立てが異なります。
そのため、株主割当を前提にしながら、総数引受契約で申込み・割当てを処理するという整理は採れません。

株主割当と第三者割当

最も誤解されやすい点として、実務では、既存株主が出資する場面を見ると、すぐに「株主割当」と呼びたくなります。
しかし、会社法上の株主割当は、単に株主が引受人であることを意味するものではありません。

株主割当とは、株主に対し、株式の割当てを受ける権利を与える手続です。
つまり、制度の本質は「誰が引き受けるか」ではなく、どの法的構成で引受権を与えるかにあります。

したがって、たとえ引受人が唯一の株主であったとしても、
・株主に権利を与える方式をとるなら株主割当
・契約によって引き受けるなら第三者割当的な構成

という整理になります。

総数引受契約は、なぜ株主割当に乗らないのか

総数引受契約は、申込みと割当てを契約で完結させる制度です。
もともと、募集株式発行では通常、①募集事項の決定、②申込み、③割当て、④払込みという流れをたどります。
これに対し、総数引受契約は、会社と引受人との間の契約によって、申込みと割当てを個別に進める手順を省略・一体化して処理する性格を持っています。

しかし、株主割当は、会社が株主に対して割当てを受ける権利を与える制度であり、その権利行使として申込みが行われる構造です。
したがって、契約方式である総数引受契約を、そのまま株主割当の枠内に持ち込むことはできない、という整理になります。

100%親会社が出資するだけでも結論は変わらない

例えば、上場企業の100%子会社が増資し、親会社だけが引き受けるケースでは、形式的には株主は1名です。
そのため、「どうせ親会社しかいないのだから、総数引受契約でも実質は同じではないか」という感覚が生じやすいところです。

しかし、ここでも重要なのは、実質的に誰が引き受けるかではなく、会社法上どの手続類型を使うのかです。

つまり、
・株主割当として行うなら、総数引受契約は使えない
・総数引受契約を使うなら、それは株主割当ではなく別の構成で行うことになる
ということです。

この点は、親会社が100%株主であることと、株主割当であることは同義ではないという意味でも重要です。

取締役会決議だけで発行したいなら、なぜ株主割当が問題になるのか

例えば、定款の定めに従い、株主総会決議ではなく取締役会決議のみで募集株式を発行したいという事情があった場合、
ここで、株主割当を前提に手続を組みたくなるわけです。

たしかに、定款に定めがある場合には、株主割当による募集株式発行について募集事項等を取締役会決議で定めることができます。
このため、総会を省略してスピーディーに処理したい場面では、株主割当が魅力的に見えます。

しかし、その場合でも、株主割当を選ぶ以上は株主割当の手続に従う必要があり、総数引受契約に置き換えることはできないというのが本件のポイントです。

株主割当で短期間に進める場合の実務上の注意点


(1)割当日を定めないこと

株主割当で割当日を定めると、基準日公告の問題が生じます。
短期間で処理したい案件では、これがかえって足かせになります。

そのため、迅速に進めるのであれば、割当日を定めない整理が実務上重要です。

(2)期間短縮の同意書を取ること

株主割当は、通知期間や申込期間の関係上、第三者割当や総数引受契約よりも手続が重く見えます。
この点、短期間で進めるのであれば、期間短縮のための同意書が必要になります。

株主割当で急ぐ場合は、総数引受契約で飛ばすのではなく、株主割当の枠内で短縮同意等を適切に整えるという発想が必要です。

本コラムのまとめ

株主割当による増資と総数引受契約は、実務上混同されやすい論点です。
今回のポイントを整理すると、次のとおりです。

論点 実務上の整理
株主割当で総数引受契約を使えるか 使えない
親会社100%子会社で親会社のみが引き受ける場合 それでも、株主割当と総数引受契約は別問題
取締役会決議のみで進めたい場合 株主割当の枠内で手続を組む必要がある
DESであっても総数引受契約を使えるか 株主割当なら不可
急ぎの案件での注意点 割当日を定めない、期間短縮同意を整える

手続きをおこなう法務担当者は、制度の骨格から整理する必要があります。

手続きのご依頼・ご相談

本日は、株主割当による増資で「総数引受契約」は使えるのか?手続きの選択ミスに注意について解説しました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。

本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

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