自己株式取得と売主追加請求権、買取請求には必ず応じなければならないのか
特定の株主からの自己株式取得と売主追加請求権
特定の株主から自己株式を取得したいと考える会社は少なくありません。
一方で、その際に必ず問題となるのが売主追加請求権(会社法160条)です。
実務では、次のような疑問がよく出てきます。
「売主追加請求権が行使されたら、
会社は資金がなくても、他の株主からの買取に応じなければならないのか?」
本稿では、この疑問に答える形で、売主追加請求権の原則的な仕組みと、
例外的に排除されるケース、さらに実務上の設計の考え方を整理します。

売主追加請求権とは何か
売主追加請求権(会社法160条)は、特定の株主から自己株式を取得する場合に、
他の株主にも同一条件で株式を売却する機会を与える制度です。
制度の趣旨は、特定の株主だけを不当に優遇することを防ぐ点にあります。
もっとも、この制度は
「会社が希望する限度を超えて株式を買い取らなければならない」
という趣旨のものではありません。
重要なのは「取得枠」という考え方
自己株式取得にあたっては、会社法156条に基づき、株主総会で取得条件を決議します。
実務上は、次のような事項を定めるのが一般的です。
・取得する株式数
・取得価額(又はその算定方法)
・取得対象期間
これに加えて、
取得価額の総額(又は取得株式数)の上限を定めることが重要になります。
この上限が、いわゆる「取得枠」です。
売主追加請求権は、この株主総会決議で定められた取得枠に「参加できる権利」にすぎず、
会社に対して、その枠を超えて新たな買取義務を生じさせるものではありません。
取得上限と按分取得が問題になる場面とは
実務上よく混同されるのが、按分取得が必要となる場面です。
按分が問題となるのは、次のようなケースです。
・株主総会で取得枠が定められている
・その枠を超えて
・複数の株主から買取希望が出た場合
この場合、特定の株主のみを優先することはできず、
取得枠の範囲内で按分して取得する必要があります。
一方で、取得枠を超える分については会社がこれに応じる必要はありません。
会社としては、自己株式を取得するにあたり、特定の株主から株式を取得したいと考えるのが通常です。
しかし、売主追加請求権が行使されると、他の株主からの売却にも応じる必要が生じ、
その結果、株主総会で決議した取得株式数(又は取得価額)の上限を超える売却希望が出た場合には、
特定の株主のみを優先することができず、取得枠の範囲内で按分して取得せざるを得なくなります。
そうすると、会社が当初想定していた株主から、想定どおりの株数を取得できない事態が生じることになります。
そのため、あらかしめ売主追加請求権を排除した定款の定めをしておくなどの対応が重要です。
「会社にお金がなかったらどうなるのか」
冒頭の質問に戻ると、答えはこうなります。
売主追加請求権が行使されたとしても、会社は、株主総会で決議した取得枠の範囲で対応すれば足りるのであり、資金的に対応できない取得まで強制される制度ではありません。
だからこそ実務では、
・取得価額の総額に上限を設ける
・取得対象期間を明確にする
といった設計が不可欠となります。
本コラムのまとめ
売主追加請求権は、
・株主平等を確保するための制度であって
・会社に無制限の買取義務を課すものではありません
重要なのは、株主総会決議で取得条件(取得枠)を適切に定めることです。
この点を誤ると、想定外の資金負担やトラブルにつながりかねません。
自己株式取得を検討する際には、制度の趣旨だけでなく、実務上の「枠」の考え方を踏まえた設計が重要といえるでしょう。
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本日は、自己株式取得と売主追加請求権、会社にお金がなければ断れないの?という素朴な疑問について解説しました。
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