代表取締役等の住所非表示措置が自動的に継続する場合と再申出が必要な場合
代表取締役等の住所非表示措置が自動的に継続する場合と再申出が必要な場合
2024年10月1日から導入された代表取締役等の住所非表示措置は、スタートアップやオーナー企業を中心に急速に利用が広がっています。一度非表示措置を講じた会社では、「このままずっと非表示のままでいけるのか」という点が次の関心事になります。
しかし実務では、
「変更登記をしたら、知らないうちに住所が表示されていた」
という事故が現実に起こり得ます。
本稿では、どの登記で非表示措置が自動的に維持され、どの登記では改めて申出が必要になるのかを、登記実務の視点から整理します。
非表示措置は「登記の種類」に紐づく制度
まず押さえておきたいのは、非表示措置は、
一度適用されたら終わりの制度ではないという点です。
非表示措置は、一定の登記申請と同時にのみ申し出ることができる制度であり、その後の変更登記の内容によって、
・自動的に効力が維持される
・自動では維持されない
という差が生じます。
判断の軸はシンプルで、
「その登記によって、代表取締役等の住所が新たに登記されるかどうか」
です。
影響を受けない変更登記
次のような登記では、代表取締役等の住所が登記事項として触れられません。
・商号変更
・目的変更
・募集株式の発行
・機関設計の変更(取締役会設置など)
これらの登記をしても、既に講じられている非表示措置に影響はなく、自動的に維持されます。
特別な対応をしなくても、住所が再表示されることはありません。
最も注意すべき「住所変更登記」
代表取締役等の住所変更登記は、非表示措置との関係で最も事故が起きやすい場面です。
重要なのは、
変更後の住所については、過去の非表示措置は引き継がれない
という点です。
つまり、
・変更前の住所が非表示だった
・変更後の住所も非表示にしたい
この場合でも、
住所変更登記と同時に、改めて非表示措置の申出をしなければなりません。
これを失念すると、変更後の住所は登記事項証明書等に表示されます。
代表取締役の重任・再任の場合
住所に変更がない場合
任期満了に伴う重任や、形式的な再任であっても、
登記簿上の住所に変更がない場合には、非表示措置は自動的に維持されます。
この場合、特段の申出をしなくても、住所は引き続き一部非表示となります。
住所に変更がある場合
一方、重任・再任のタイミングで住所が変わっている場合は注意が必要です。
このケースでは、
就任(重任)登記と同時に非表示措置を申し出なければ、非表示は継続されません。
重任だから大丈夫、再任だから大丈夫、という整理にはなりません。
判断基準はあくまで「住所が変わっているかどうか」です。
解散時の代表清算人就任は例外
実務上、特に見落とされやすいのがこの場面です。
解散登記と同時に、
・代表取締役がそのまま代表清算人になる
・または選任されて代表清算人に就任する
この場合でも、非表示措置は自動的には引き継がれません。
代表清算人としても住所非表示を希望する場合は、代表清算人就任登記と同時に、必ず非表示措置の申出が必要です。
取締役と清算人は別区分ですので、同一人物が就任する場合であっても、住所が変わっていないかどうかは関係ありません。
本店移転登記との関係
管轄内本店移転
管轄内本店移転では、非表示措置は自動的に維持されます。
この登記と併せて、新たに非表示措置を申し出ることはできません。
管轄外本店移転
管轄外本店移転でも、既存の非表示措置は維持されます。
この場合に限り、これまで非表示措置を講じていなかった代表者について、新たに申出をすることは可能です。

実務判断を一覧で整理
| 登記内容 | 非表示措置は自動で継続するか |
|---|---|
| 商号変更・目的変更・増資 | 継続する |
| 代表取締役等の住所変更 | 継続しない |
| 重任(住所変更なし) | 継続する |
| 重任(住所変更あり) | 継続しない |
| 再任(住所変更なし) | 継続する |
| 再任(住所変更あり) | 継続しない |
| 管轄内本店移転 | 継続する |
| 管轄外本店移転 | 継続する |
| 代表清算人就任 | 継続しない |
本コラムのまとめ
代表取締役等住所非表示措置は、
「一度やったら終わり」の制度ではありません。
変更登記のたびに、
・この登記は住所に触れるのか
・改めて申出が必要なのか
を確認しなければ、意図せず住所が公開されるリスクがあります。
特に、住所変更・重任(住所変更あり)・代表清算人就任この3つは、実務上の要注意ポイントです。
よくある質問(FAQ)
Q1 商号変更だけなら、非表示措置はそのままですか?
A はい。住所が登記事項とならない変更登記では、非表示措置は影響を受けません。
Q2 引っ越していないのに、重任登記で申出は必要ですか?
A 住所に変更がなければ不要です。非表示措置は自動的に維持されます。
Q3 解散時に代表清算人になる場合も非表示は続きますか?
A 続きません。代表清算人就任登記と同時に申出が必要です。
手続きのご依頼・ご相談
本日は、代表取締役等の住所非表示措置が自動的に継続する場合としない場合について解説しました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。




