有限会社から株式会社へ移行すると「役員任期」はどう扱われるのか
組織変更と役員任期
有限会社を株式会社へ組織変更するケースでは、商号・機関設計・公告方法など複数の論点がありますが、実務で見落とされがちなのが役員の任期です。
有限会社は、会社法施行以降も特例有限会社として存続できますが、株式会社へ変更する瞬間に任期の考え方が一気に変わる点に注意が必要です。
本稿では、「有限会社の役員任期」と「株式会社の役員任期」の違い、そして組織変更時に既存役員をどう扱うのかを分かりやすく整理します。
有限会社には「任期の制限」がない
まず押さえるべき前提は、特例有限会社の役員(取締役・監査役)は、定款に特段の規定がなければ任期の制限が存在しないということです。
・辞任・死亡・解任等が生じない限り、再任手続は不要
・選任後、何年経過していても在任可能
つまり、有限会社は「任期」という概念が実務上ほとんど意識されない会社形態でした。
一方、株式会社には「任期の上限」がある
これに対し、株式会社の役員は、会社法で任期が定められています。
【株式会社の役員任期の枠組み】
| 役職 | 任期の上限 |
|---|---|
| 取締役 | 選任後 2年〜10年 の範囲で定款が定める期間まで |
| 監査役 | 選任後 4年〜10年 の範囲 |
任期の起算点は「選任された日」であり、任期満了は原則として「その期間内に終了する事業年度の最終の定時株主総会の終結時」と整理されます。
では、有限会社から株式会社へ変更した場合、在任中の役員は?
最も実務的に重要なのはこの点です。
結論としては、
有限会社の取締役・監査役は、選任された日から株式会社の任期規定が適用される
というルールで整理されます。
したがって、
「組織変更した日に任期の判定が行われる」と考えるとわかりやすいでしょう。
任期の判定方法
株式会社へ移行したタイミングで、
各役員が「選任されてから何年経過しているか」を確認し、
株式会社の定款で定めた任期と照らし合わせて判定します。
【具体例(任期:選任後10年以内と定めている株式会社への変更)】
| 選任からの経過期間 | 結果 |
|---|---|
| 7年経過している役員 | → 株式会社移行後も 残り3年間 任期が継続 |
| 15年経過している役員 | → 10年上限を超過しているため、組織変更の時点で任期満了・退任 |
ここで重要なのは、
過去にさかのぼって退任扱いにはならないという点です。
例)
10年の任期を基準にすると、選任から15年経過していれば5年前に満了していた計算になります。
しかし、
遡及して5年前に退任した扱いにするのではなく、
株式会社へ組織変更した“その時点で”任期満了となる
という整理が採られます。

実務でよくある誤解
「変更後、改めて選任しなければならない?」
株式会社へ移行する際、任期が残っている役員はそのまま継続し、
任期が超過している役員のみ変更時に退任扱いとなるため、
全員を再選任する必要はありません。
任期の判定は「役員ごと」に行います。
本コラムのまとめ
有限会社から株式会社へ変更すると、
それまで存在していなかった「役員任期」が一気に問題になります。
ポイントを整理すると、
・有限会社には任期の上限がない
・株式会社には2〜10年(監査役は4〜10年)の任期がある
・組織変更した時点で、
・任期内の役員 → 継続
・任期超過の役員 → その時に任期満了として退任
・遡って退任扱いになるわけではない
組織変更の際には、
いつ選任された役員なのかを必ず確認し、
株式会社の定款任期との整合性をチェックすることが極めて重要です。
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本日は、有限会社から株式会社へ移行すると「役員任期」はどう扱われるのかについて解説しました。
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