資本金の額の増加

非公開会社の募集株式発行(増資)で起こりやすい手続ミス一覧

非公開会社の募集株式発行(増資)で起こりやすい手続ミス

エクイティによる資金調達は、契約書を交わして、投資家からお金が振り込まれれば終わり……ではありません。
会社法にしたがって募集株式の発行手続きが完了してはじめて、株式発行の効力が生じるので、
手続を飛ばしてしまうと、「お金だけ受け取っているが株式は発行されていない」という危うい状態になりかねません。

とくに、
・外部投資家(VC・事業会社など)が入るラウンド
・優先株式や無議決権株式など、種類株式を使うスキーム

では、投資家側も「会社法上の手続きがきちんと踏まれているか」を当然に気にしています。
ここでは、非公開会社を前提に、募集株式発行に関する会社法・登記手続きのうち、ミスが生じやすいポイントを整理します。
1株あたり発行価額の設定ミスや、持株比率の設計ミスなど資本政策そのものは対象外とし、あくまで「手続き面」の話に絞ります。

株主総会・種類株主総会まわりのミス

決議の抜け・要件不備

区分 典型的なミス・抜け ポイント
同じ種類株式の追加発行 普通株式+A種優先株式の会社で、A種優先株式の追加発行(セカンドクローズ)の際、株主総会決議はしているが、A種優先株主の種類株主総会決議(会社法199条4項)が抜けている 無議決権株式の追加発行でも同様。名称から「種類株主総会」のイメージが湧きにくく、忘れやすい
新しい種類株式の設定 普通株式・A種優先株式がある会社で、B種優先株式を新設する際、「種」「種類」の名前が入っていないため、普通株主の種類株主総会決議をしていない 「新たな種類を作るとき」は、既存株主側の種類株主総会の要否に注意
拒否権付種類株式 募集株式の発行に拒否権(会社法108条1項8号)が付された種類株式があるのに、「事前承諾をもらっているから」として当該種類株主総会決議を省略 定款で「取締役全員が賛成なら種類株主総会不要」としているケースもあり、その場合は取締役全員の書面同意で足りる

※定款に「当該種類株式について種類株主総会決議を不要とする定め」があれば、199条4項の種類株主総会は不要です。

株主総会決議の形式・招集・みなし決議

区分 典型的なミス・抜け ポイント
決議要件 募集株式発行の株主総会決議は特別決議(会社法309条2項)なのに、普通決議の前提で議事録を作成してしまう 特別決議なので、定足数・賛成要件とも普通決議とは異なる
定足数 株主のほとんどが事前に承諾しているからといって、株主総会当日の出席株主の議決権が定足数に足りない(委任状取り忘れ等) 「議決権行使可能な株主の過半数(または定款で定めた3分の1以上)」の出席が必要
招集期間 非公開会社なのに、株主総会開催日の中1週間を満たさないタイミングで招集通知を発送している(例:10日開催なのに3日に発送) 会社法299条1項の「1週間前まで」は中1週間の意味。10日開催なら2日までに発送が必要
書面投票採用時の期間 書面投票制度(会社法298条1項3号)を採用しているのに、招集期間を1週間しか取っていない 書面投票を採用している場合は、非公開会社でも「2週間」必要
みなし決議(書面決議) 「特別決議だから3分の2以上の同意で足りる」と誤解し、全員同意を取らずに進める/口頭の同意だけで済ませる 会社法319条1項:議決権行使可能な株主全員の書面または電磁的記録による同意が必要。口頭同意だけではNG


決議事項の漏れ・発行可能株式総数

区分 典型的なミス・抜け ポイント
募集事項の決議漏れ 会社法199条1項で決まっている「株主総会で決めるべき募集事項」の一部が議案・議事録から抜けている 原則として株主総会やり直し。特に条文で列挙されている項目は抜けやすい
割当・総数引受承認の決議 取締役会非設置会社で、204条・205条の決定を「取締役レベルの話」で済ませてしまう 定款に別段の定めがなければ、株主総会決議事項。募集事項と同じ総会で決議しておくとスムーズ
発行可能株式総数超え 発行可能株式総数5,000株/発行済4,000株の会社が、2,000株を増発しようとしているのに、発行可能株式総数を増やす定款変更をしていない 会社法37条1項、113条1項:発行可能株式総数を超えて発行できない。募集事項決議と同総会で定款変更も行うのが実務的

スケジュール設計に関するミス

基本フローと前後可能な部分

総数引受契約方式の典型的な流れは次のとおりです。

順番 手続 備考
株主総会決議(募集事項の決定) 非公開会社なので原則株主総会で募集事項を決定(199条2項)
総数引受契約の締結 引受人との契約。①と前後させることも可能
取締役会決議(設置会社) 必要な場合のみ
出資の履行(払込み) 通帳に履歴を残す必要あり
登記申請 出資履行後

①~③は前後可能ですが、「いつまでに何をしなければならないか」という期日規制がある部分は守る必要があります。

割当日・払込期日・実際の入金日

論点 典型的なミス ポイント
申込み+割当方式の割当日 割当日と払込期日を同日に設定している/払込期間中に割当てをしている 会社法204条3項:払込期日の前日までに、申込者ごとに割当数を通知する必要あり
総数引受契約方式 「割当日と払込期日を同日にしてはいけない」と誤解している 総数引受契約方式では、契約締結日と払込期日が同日でもよく、払込期間初日以降に契約締結することも可能
株主総会前の入金 募集事項を決める株主総会前に出資金が入金されており、そのまま登記に使おうとする 法律上は「決定後に払込でなければ無効」とまでは書いていないが、登記実務では決議日以降の入金を求められる運用が多い。必要に応じて法務局照会や出金→再入金等を検討
払込期日の翌日着金 払込期日の23:59に振込手続をしたが、着金が翌日になっている 会社法208条1項:払込期日までに会社口座に着金していることが必要。翌日着金はNG


出資金額・払込額に関するミス

論点 典型的なミス ポイント
払込額の全額入金 期日までに全額が入っていない、後から追加を入れれば良いと考えている 募集株式の引受人は、払込期日までに払込金額全額を払込む必要(208条1項)。通帳写しで証明する都合上、「後からこっそり修正」は不可能
海外送金(為替・手数料) 海外からの送金で、為替レートや手数料により、名目出資額を下回る金額しか着金していない これでは「全額払込」にならない。追加送金等で不足額を埋める必要
振込手数料の会社負担 出資額1,000万円なのに、手数料を会社負担にして差引額のみが着金している 手数料分も含めて1,000万円が会社口座に入っていなければ「全額払込」とはいえない


資本金・資本準備金・自己株式

論点 内容 ポイント
資本金への組入れ額 払込額のうち2分の1を超えない範囲で資本金に計上しないことができる(会社法445条2項) 資本金に計上しない部分は、資本準備金として計上(445条3項)
自己株式交付 募集株式の発行で、新株ではなく自己株式を交付するケース 自己株式部分については、資本金・資本準備金は増減しない(その他資本剰余金は増減の可能性)
資本金のライン 全額資本金に計上した結果、資本金が1,000万円/1億円/5億円などのラインを超え、そのまま年度をまたぐケース 「法律上の問題はない」。登録免許税・税務・大会社該当などの影響は別途検討事項となり得る。


外部投資家が入るフェーズでは、早めに専門家へ

これまで自社で登記をしてきた会社でも、
外部株主・外部役員が入るタイミングで司法書士に依頼するケースが多いです。

外部関係者が入る局面では、
「本業にリソースを割いた方が効率が良い」という事情もありつつ、
法的手続きをきちんと踏む必要性が高いからです。

司法書士に依頼する範囲を
「登記申請書作成+代理申請」だけでなく、

・スケジュール管理
・株主総会・取締役会決議事項の確認
・招集通知・議事録の内容チェック
まで含めるメリットは大きいといえます。

エクイティファイナンスを検討している場合は、
株主総会決議が終わってからではなく、なるべく早い段階で相談した方がスムーズです。

手続きのご依頼・ご相談

本日は、非公開会社の募集株式発行(増資)で起こりやすい手続ミス一覧を解説しました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。。

本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

ご相談・ご依頼はこちら
お問い合わせ LINE

ご相談・お問い合わせはこちらから