上場会社が当事者となる合併公告と「BS要旨」掲載の実務
上場会社が当事者となる合併公告
上場会社が当事者となる合併では、いわゆる会社法上の手続だけでなく、電子公告・有価証券報告書・適時開示など、複数の「開示」が絡みます。
とくに悩ましいのが、合併公告に記載する「計算書類に関する事項」をどう扱うか、そして上場会社に決算公告義務が免除されているにもかかわらず、BS要旨の公告が必要になる局面があるという点です。
本稿では、実際の上場会社子会社合併を題材に、
・電子公告・電子公告調査の実務
・上場会社ならではの公告文面の考え方
・決算取締役会と有価証券報告書提出との関係
・いわゆる「問題の時期」におけるBS要旨公告の要否
を整理します。
上場会社の合併と電子公告実務
上場会社子会社を吸収合併するケース
今回のモデルケースは、上場会社が子会社を合併するパターンです。
非上場会社同士の合併との大きな違いの一つが、電子公告です。
・合併公告は電子公告で行う
・電子公告調査会社による「電子公告調査」が必要
・過去に株式分割などで電子公告調査をしている会社も多い
もっとも、社内の担当者が変わっていると、
「どの調査会社に依頼したのか分からない」ということもあります。
その場合は、想定している調査会社に照会し、過去に登録があるか確認するのが実務的です。
初回登録の手続が不要であれば、その分だけ負担が軽くなります。
司法書士が担う範囲と会社側にお願いすべき範囲
電子公告では、公告原稿(PDFデータ)を会社ホームページに掲載します。
このとき、次のように役割分担を整理しておくことが重要です。
司法書士側
・公告原稿・登記関係書類の作成
・電子公告調査会社とのやり取りのサポート
会社側
・ホームページへのPDFアップロード
・調査会社との事前テスト・運用面の調整
・社内での情報共有(中断防止)
とくに注意が必要なのが「中断」です。
電子公告の運用中断が発生すると、公告全体の有効性に影響しますので、
・社内での体制・責任者
・サーバー移転やサイトリニューアル時の対応
を含め、「中断しないための段取り」をしつこいくらいに共有しておくことが欠かせません。
上場会社ならではの公告文面の考え方
非上場会社の合併公告では、一般に
・誤植リスクを減らす
・公告料を抑える
といった観点から、必要最小限の文言でまとめることが多いと思います。
一方で、上場会社が当事者となる合併では、考え方がやや異なります。
・関係者・投資家など、広く一般に伝えるべき情報は、一定程度しっかり書く
・官報については、電子公告に比べて簡略でもよい場合があるが、電子公告の文面は丁寧に整理しておく
もっとも、親会社(上場会社)が合併当事者としては表に出ず、グループ会社間の組織再編にとどまる場合には、中小企業の対応とあまり変わらない運用で足りることもあります。
上場会社の合併で意識すべき「開示」の種類とタイミング
上場会社が当事者となる合併では、「開示」が複線的に走ります。
・有価証券報告書(臨時報告)
・適時開示(TDNet)
・プレスリリース(任意のネット開示など)
とくに押さえておきたいのが、取締役会決議と開示タイミングとの関係です。
・会社法上のスケジュールだけを見ていると不十分
・開示は「取締役会決議後ただちに」求められる
・実務上は、事前開示事項に加えて「プラスα」の情報を載せることになる
結果として、事前開示のタイミングそのものが繰り上がるイメージになります。
もっとも、これら開示をすべて司法書士に丸投げしてくる上場会社は通常なく、
必要に応じてスケジュール感の共有や文案確認のサポートをする、というイメージで捉えておくとよいと思われます。
会計監査人設置会社における計算書類の確定時期
ここから、本題である「BS要旨を公告すべきかどうか」に関わる計算書類の確定タイミングを確認します。
上場会社は、原則として会計監査人設置会社です。
・「取締役会+監査役・監査役会+会計監査人」
または
・「取締役会+監査等委員会(又は指名委員会等)+会計監査人」
というガバナンス形態が一般的です。
会計監査人設置会社には、計算書類の承認方法について特則があります。
・会計監査人が「無限定適正意見」を表明した場合
・株主総会では計算書類の「承認」ではなく「報告」を行う扱いになる(会社法439条)
・計算書類が確定するのは、取締役会(いわゆる決算取締役会)で承認された時点(会社法436条3項)
したがって、
決算取締役会の日から株主総会開催日までの間は、最終貸借対照表が有価証券報告書に開示されていない期間
という、「隙間の期間」が生じます。
この期間が、のちほど述べる「問題の時期」です。
上場会社の合併公告と「計算書類に関する事項」
上場会社の合併公告では、「計算書類に関する事項」として、通常は
「金融商品取引法による有価証券報告書提出済。」
といった記載をします。
これは、上場会社には決算公告義務がない代わりに、有価証券報告書に計算書類が記載されていること(会社法440条4項)を前提とした運用です。
ところが、前述のとおり、
・決算取締役会で計算書類は確定している
・しかし、有価証券報告書の提出は株主総会後になる
ことから、決算取締役会翌日から株主総会開催日までの期間には、
最終の貸借対照表が有価証券報告書に載っていない
という状況が生じます。ここが、合併公告実務で問題となるポイントです。
「問題の時期」におけるBS要旨公告の要否
では、この「問題の時期」に合併公告を掲載する場合、どう考えるべきでしょうか。
原則としては、
上場会社であっても、合併公告とともにBS要旨を公告する必要がある
という整理になります。
なぜなら、「計算書類に関する事項」として、有価証券報告書に頼ることができない期間だからです。
非上場大会社との比較
たとえば、12月決算の会計監査人設置会社(上場会社を含む)であれば、決算公告と合併公告の関係は、概ね次のようなイメージになります。
決算取締役会後に合併公告を出す場合
→ 令和5年12月31日現在の決算公告(またはその要旨)
決算取締役会前に合併公告を出す場合
→ 令和4年12月31日現在の決算公告(またはその要旨)
非上場大会社であれば、決算公告(BS要旨+大会社ならPL要旨)をきちんと行う前提で整理できますが、上場会社はそもそも決算公告義務が免除されているため、この割り切りがそのまま使えません。
その結果、「問題の時期」には、
・合併公告にBS要旨を併載する
・あるいは、有価証券報告書が既に提出済みであることを確認したうえで、「有価証券報告書提出済」と記載する
といった対応が必要になります。
有価証券報告書を「株主総会前」に提出できるようになっている点
ここで重要なのが、有価証券報告書の提出時期に関するルールの変更です。
2009年12月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書から
定時株主総会開催前に提出することが可能になっている
という点です。
もっとも、実務上は、定時株主総会前に有価証券報告書を提出している会社は多くないとされています。
それでも、「問題の時期」に合併公告を掲載する場合には、
・有価証券報告書が既に提出されているかどうか
・それにより、「計算書類に関する事項」の書きぶりをどうするか
を必ず確認する必要がある、ということになります。
今回のモデルケースでは、たまたま、決算取締役会の前に合併公告を出さざるを得ない日程だった
ため、「問題の時期」を外す形となり、結果として深刻な悩みには発展しませんでした。
もっとも、上場会社本体が合併当事者になる案件では、日程設計のちょっとしたズレが大きな問題に発展しかねないため、慎重なスケジューリングが求められます。
実務上のチェックポイントまとめ
上場会社の合併公告とBS要旨公告の要否を検討するにあたって、最低限確認しておきたい点を整理すると、次のとおりです。
・電子公告かどうか、電子公告調査会社との登録状況
・電子公告の中断防止のための社内体制
・上場会社が当事者となるか、グループ会社間再編にとどまるか
・取締役会決議日・決算取締役会日・株主総会日・合併公告予定日の関係
・会計監査人設置会社としての計算書類確定のタイミング
・「問題の時期」に合併公告がかからないかどうか
・有価証券報告書の提出時期と、「計算書類に関する事項」の書きぶり
いずれも、実務上の違和感から出てきた論点ですが、上場会社が絡むと、1つの論点が手続き全体に効いてくる場面が少なくありません。
手続きのご依頼・ご相談
本日は、上場会社が当事者となる合併公告と「BS要旨」掲載の実務について解説しました。
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