転換社債型新株予約権付社債(CB)とは何か
転換社債型新株予約権付社債(CB)
成長段階の企業では、株主構成に大きな変動を与えずに資金調達したい、
あるいは将来の株価上昇を見据えた投資家との関係構築をしたい、
というニーズのもと 「転換社債型新株予約権付社債(CB)」を選択するケースが増えています。
しかし、CBは
・社債
・新株予約権
・金商法
・登記(新株予約権の登記)
・資本金の増加タイミング
が複雑に絡むため、体系的な理解が欠かせません。
本稿では 転換社債に焦点を当てて、発行手続・機関決議・登記・資本金の増加ポイントなど必要な実務を整理します。
転換社債型新株予約権付社債(CB)とは?
まず転換社債型新株予約権付社債(CB)とは何かを一枚で理解できるように整理します。
転換社債型新株予約権付社債(CB)の構造
| パーツ | 中身 | コメント |
|---|---|---|
| 社債 | 投資家が会社に貸すお金 | 利息・償還期限などを定める |
| 新株予約権(ストックオプション)」 | 将来株式を取得できる権利 | 行使価額・行使期間を定める |
| 転換社債型 | 社債を「出資」とみなして株式へ転換可能 | 社債 → 株式 という変換が可能 |
つまり転換社債型新株予約権付社債(CB)は、
「借入」と「株式調達」がハイブリッドになった金融商品です。
転換社債型新株予約権付社債(CB)のメリット・デメリット
●会社側のメリット
| メリット | 理由 |
|---|---|
| 株式より希薄化が遅い | 転換されるまでは株式ではないため |
| 出資を受けたのと同様の効果を得られる | 行使時に社債が現物出資される |
| 株価上昇を前提とした投資家との交渉に強い | 将来価値を見込んだ資金調達が可能 |
| 投資家の選別がしやすい | 少人数私募・プロ私募が組みやすい |
●会社側のデメリット
| デメリット | 内容 |
|---|---|
| 手続が複雑 | 株主総会特別決議+原簿管理+登記 |
| 金商法の検討が必須 | 公募扱いになると届出が必要 |
| 将来希薄化のリスクは残る | 転換価額次第で株主構成が変動 |
転換社債型新株予約権付社債(CB)発行の全体フロー(一覧)
●転換社債型新株予約権付社債の発行手続(非公開会社・取締役会設置)
| STEP | 手続 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 取締役会① | 発行方針の決議、株主総会招集決議 |
| 2 | 株主総会(特別決議) | CBの内容(社債+新株予約権)を決定 |
| 3 | 募集事項の通知 | 引受希望者へ242条の通知 |
| 4 | 引受申込 | 投資家が申込書を提出 |
| 5 | 取締役会② | 割当先・割当数の決定(243条) |
| 6 | 割当通知 | 割当日の前日までに通知 |
| 7 | 払込 | 払込期日までに社債金額払込 |
| 8 | 割当日に効力発生 | 新株予約権者・社債権者となる |
| 9 | 原簿作成 | 新株予約権原簿・社債原簿作成 |
| 10 | 登記 | 割当日から2週間以内に登記 |
株主総会で決めるべき事項(CB特有の注意点)
株主総会の特別決議で定める内容を、CBに絞って一覧化します。
社債(会社法676条)に関する事項
・総額・各社債の金額
・利率
・償還方法・償還期限
・利息支払方法・期限
・払込金額・払込期日
・社債券を発行するかどうか など
新株予約権(会社法236条・238条)の事項
・目的株式数または算定方法
・行使価額または算定方法
・行使期間
・行使条件
・譲渡承認の有無
・取得条項の有無
・新株予約権証券を発行するか など
転換社債型新株予約権付社債(CB)特有の論点
| 論点 | 必ず決める理由 |
|---|---|
| 転換価額(行使価額) | 株式の交付基準となるため |
| 価額調整(アンチ・ダイリューション)条項 | 将来の増資に備える |
| 割当日 | 割当日に登記期限が紐づく |
| 払込期日=割当日 にセット | 原簿作成・登記スケジュールの整合性 |
CB発行と金商法「募集」か「私募」か
転換社債型新株予約権付社債(CB)は完全に「有価証券」であるため、金商法の規制を避けて通れません。
●どちらに分類されるかが最重要
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 募集(公募) | 有価証券届出書が必要。負担が非常に重い |
| 私募 | ・少人数私募・適格機関投資家向け私募のいずれかを組む |
●中小企業・ベンチャーではほぼ100%「私募」
・相手方50人未満(少人数私募)
・投資家が適格機関投資家のみ(プロ私募)
・譲渡制限(転売制限)を必ず明示
が中心となります。
※私募でも総額1億円以上なら告知義務あり。
どの瞬間に「新株予約権者」になるのか
CBの誤解が最も多いポイントがここです。
●タイミングの比較表
| タイミング | 投資家の地位 | 資本金への影響 |
|---|---|---|
| 払込期日(多くは割当日) | 社債権者+新株予約権者になる | 資本金は増えない |
| 新株予約権の行使時 | 株主になる(社債を出資) | この時点で資本金増加 |
転換社債型新株予約権付社債(CB)発行時に資本金が増えているわけではありません。
増えるのは「新株予約権行使時」だけです。
転換社債型新株予約権付社債(CB)発行後の原簿・登記の実務
●作成する原簿
| 原簿 | 内容 |
|---|---|
| 新株予約権原簿 | 目的株式数・行使価額・行使期間など |
| 社債原簿 | 償還条項・利率・払込額・社債権者情報など |
●登記(割当日から2週間以内)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 登記の対象 | 新株予約権(社債ではない) |
| 添付書類 | 株主総会議事録/株主リスト/取締役会議事録/申込書等 |
| 登録免許税 | 9万円 |
転換社債型新株予約権付社債(CB)を使うときの実務注意ポイント
実務で最もトラブルになるポイントをまとめます。
●注意ポイント一覧
| 論点 | 失敗例 |
|---|---|
| 割当日設定 | 登記期限が“割当日に依存する”ため、スケジュール調整が必須 |
| 原簿作成 | 作成遅延・記載漏れが多い(株主総会と整合しない等) |
| 金商法 | 私募の人数カウントを誤ると「募集」になり届出義務が発生 |
| 発行内容の整合性 | 条項の不一致(転換価額・行使期間)で登記不可となる |
| 投資契約との整合 | VC契約・投資契約と発行要項が食い違いやすい |
本コラムのまとめ
転換社債型新株予約権付社債は、
デット(借入)とエクイティ(株式)の中間に位置する極めて専門的な資金調達手法です。
・株主総会特別決議で条件を正しく設計しているか
・金商法上、私募として適切に管理できているか
・割当日・払込期日・登記期限のスケジュールが整っているか
・原簿管理が法令どおりにできているか
このあたりを確実に抑えることが、安全なスキーム構築につながります。
手続きのご依頼・ご相談
本日は、転換社債型新株予約権付社債(CB)とは何かについて解説しました。
当事務所ではCB発行実務を取扱っています。設計・評価・登記までワンストップで対応可能です。
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