新株予約権(SO)

税制適格ストックオプションの権利行使価額を変更する場合の登記実務

新株予約権の内容変更に必要な決議・同意・添付書類を整理

税制適格ストックオプション(SO)について、令和5年7月の国税庁Q&Aの改訂により、一定の要件を満たす場合には、権利行使価額を引き下げる契約変更を行っても税制適格要件を維持できることが明確になりました。

これにより、スタートアップを中心に「行使価額の引下げ」を検討する動きが広がっていますが、
実務では当然ながら 新株予約権の「内容変更」に該当するため、会社法上の手続と登記申請が必要となります。

本稿では、権利行使価額変更に伴う登記手続として必須となる決議・同意・添付書類の整理を行い、専門家として押さえておきたい論点をまとめます。

権利行使価額変更が可能となった背景

国税庁の通達改正(2023年7月7日付)により、以下の考え方が示されました。
・税制適格SOであっても、権利行使価額を引き下げる契約変更を行うことは可能
・ただし、変更後の行使価額が税制適格SOの要件を満たすことが必要
・元々“非適格”であったSOを「適格に変更する」ことはできない点には注意(Q&A問10参照)
・付与決議の内容に反する場合は、行使価額を変更する決議が別途必要

したがって、税務要件の確認と並行して、会社法上の「内容変更」手続を正確に踏むことが不可欠になります。
新株予約権の内容変更に必要な手続の全体像

内容変更に必要な実務ステップは、次のとおり整理できます。

① 発行決議を行った機関で「内容変更を決議」
新株予約権を発行した機関(株主総会・取締役会・取締役決定)が、原則として変更決議も行います。
通説(商業登記ハンドブック)でもこの整理が採用されています。

なお、株主総会で決議する場合は、発行時と同様の手続が求められるとの見解から、特別決議としておくのが安全です。

② 有利発行となる場合は「株主総会特別決議」
変更内容が株主以外の者に「特に有利」な条件となる場合、有利発行に該当し、
株主総会の特別決議が必要です(新株予約権ハンドブック等の見解)。

行使価額引下げは、新株予約権者には有利であり得るため、変更内容によってはここが必ず確認ポイントになります。

③ 種類株主総会が必要となる場合がある
以下の場合は、種類株主総会の特別決議が必要です。
・会社法238条4項(目的株式が譲渡制限株式 等)
・108条1項8号(拒否権付種類株式がある場合 など)
・322条1項5号(株主割当てで特定種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合)

種類株主総会不要の定款規定がない場合は、必ず検討します。

④ 原則:新株予約権者全員の同意が必要
内容変更は、会社の機関決定だけで完結せず、
新株予約権者全員の同意を要するという整理が実務上一般的です。

ただし、行使価額の下方修正が新株予約権者に不利益をもたらさない場合には、
機関決定のみで足りるとする見解もあります(株式会社法第8版)。

もっとも、会社側で「不利益なし」を厳密に判断することは難しく、多くの法務局でも同意書を求める運用です。
実務的には 全員同意書を取得しておくことが無難です。

⑤(必要な場合)変更契約書の締結
原契約(新株予約権引受契約)に変更時の扱いが定められている場合は、契約に従って変更契約書を締結します。
なお、変更契約書そのものは 登記の添付書類ではありません。

登記申請の基本構造(申請書記載例の方向性)

登記申請では、「新株予約権の内容変更」を目的とし、以下を記載する形となります。
・新株予約権の行使価額の変更内容
・変更の効力発生日
・発行決議機関
・新株予約権者の同意を得た旨(必要な場合)

添付書類として求められる主なもの

・新株予約権内容変更の決議書
(株主総会議事録、取締役会議事録、取締役決定書 など該当機関のもの)
・新株予約権者全員の同意書
(または「同意不要と判断した理由」を明示した決議書)
・代理申請の場合は登記委任状

内容変更契約書を締結した場合でも、前述のとおり添付書類ではありません。

実務で特に注意すべきポイントのまとめ

・税務要件の確認だけでは不十分。会社法上の手続と登記が必須。
・内容変更は、発行時と同じ機関が決議するのが原則。
・有利発行となる場合は株主総会特別決議が必要。
・種類株主総会が必要となる場面が存在する。
・原則:新株予約権者全員の同意が必要(実務上もほぼ必須)。
・登記添付書類は「決議書」「同意書」が中心。
・変更契約書は添付不要。

権利行使価額の引下げは、SO保有者・企業双方にメリットがありますが、税務と会社法手続を正しく踏まなければ無効・適格外となるおそれがあります。
専門家による確認のうえ、慎重に進めることが不可欠です。

手続きのご依頼・ご相談

本日は、税制適格ストックオプションの権利行使価額を変更する場合の登記実務を解説いたしました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。

本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

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