弁護士法人の設立登記手続を解説、添付書類と実務上のポイントを体系的に整理
弁護士法人の設立登記
弁護士法人の設立は、株式会社の設立と似ているように見えて、実際の運用・添付書類・法務局の確認事項がまったく異なります。
とくに、社員となる弁護士の資格確認や、事務所所在地の決定方法などは専門的で、一般的な設立登記とは考え方が大きく異なります。
ここでは、弁護士法人の設立登記に必要となる書類と、実務で迷いやすい論点を体系的にまとめます。
設立登記で必要となる主な添付書類
弁護士法人の設立では、次の書類を準備します。
・公証役場で認証を受けた定款
・社員となる弁護士の資格証明書(日本弁護士連合会発行)
・代表社員の選定を証する書面(定款または総社員の同意書)
・合併公告方法・電子公告に関する決定書
(定めがない場合は不要)
・主たる事務所の所在場所に関する決定書
・登記委任状(代理申請の場合)
・法人代表者印の印鑑届書
・法人代表者の個人の印鑑証明書
株式会社の設立と比べると、弁護士資格に関する証明書や所在地決定書など、独自の添付書類が多い点が特徴的です。
定款・認証・資格証明書に関する論点
定款に印紙は不要
印紙税法では、「株式会社・合名・合資・合同・相互会社」の定款のみが課税対象のため、弁護士法人の定款には印紙を貼る必要がありません。
定款認証に必要な書類
公証役場で定款認証を受ける際には、次の書類を求められます。
・定款 3通
・社員の個人の印鑑証明書
・社員の弁護士資格に関する証明書
(提示のみで足りる場合と、写しを求められる場合がある)
・代理出頭の場合は委任状および本人確認書類
公証役場ごとに運用が異なるため、事前確認が不可欠です。
弁護士の「資格証明書」の意味
実務では、「弁護士法人の社員となる資格(欠格事由なし)」を確認する形式の証明書を使用する例が一般的です。
単なる弁護士登録証明では足りない場面もあるため、注意が必要です。
資格証明書の入手方法
証明書の様式は日本弁護士連合会の規則で定められており、取得は各弁護士本人から行います。
最新の取り扱いは、所属弁護士会・日弁連への確認が推奨されます。
社員・代表社員の肩書表示と「目的等」の書き方
肩書の登記例
実際の登記記録では、おおむね以下のように記載されます。
<各社員が代表権を有する場合>
住所
社員 氏名
<代表社員を定める場合>
住所
社員 氏名
住所
代表社員 氏名
「目的等」に小見出しを求められる場合がある
最近の法務局では、目的欄に「目的及び業務」など、小見出しの挿入を求める指導がみられることがあります。
例
「目的等」
目的及び業務
当法人は、……
ただし、小見出しがない場合でも受理されている例もあり、運用は必ずしも一律ではありません。
主たる事務所の「所在場所」の決定と添付書類
定款で「法律事務所の所在地」を最小行政区画(例:東京都〇〇区)までしか定めていないケースでは、登記申請では町名・番地までを決定する必要があります。
この際、「どのように決定し、どの書類を添付するか」が実務上の論点です。
・法務局によっては、総社員の決定書の添付を求める運用が存在する
・法的に明確な添付義務を定めた規定は見当たらないものの、実務負担が大きくなければ決定書を添付しておくほうが安全
といった扱いになっています。
また、弁護士法人の多くの定款では、業務執行の決定方法が十分に規定されていない例が目立ちます。
業務執行の決定方法(社員の過半数、出資比率による議決権など)を定款上明確化するほうが運用上望ましいといえます。
出資額と出資義務に関する整理
出資額の決め方
出資額は法令上の制限がなく、次のような考え方があります。
・運転資金を確保する水準で設定する
・最低限の額を形式的に出資する(1万円・10万円など)
少額にする場合は、事務所運営の実態とのバランスに注意が必要です。
出資は必須か
弁護士法人は、社員が無限責任を負う構造であり、出資履行義務に関する規定も置かれていないことから、必ずしも出資は必須ではありません。
ただし、実務的には社員が一定額の出資を行っている例が多いです。
本コラムのまとめ
弁護士法人の設立登記は、株式会社よりも添付書類と運用の幅が広く、次の点が特に重要です。
・資格証明書や所在地決定書など、弁護士法人特有の書類が必要
・定款には印紙不要だが、公証役場での添付資料の確認が不可欠
・「目的等」の小見出しや、肩書の登記方法にバリエーションがある
・所在地決定については、総社員決定書を求められる場合がある
・出資の扱いは自由度が高いが、実務負担を考慮して決める必要がある
弁護士法人は、一般の法人と異なる制度趣旨のもとに設計されており、登記実務にも個別のルールが多く存在します。設立時には、事前に必要書類の確認と、定款内容の精査を行うことが重要です。
手続きのご依頼・ご相談
本日は、弁護士法人の設立登記手続を解説しました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。




