弁護士法人の従たる事務所設置と登記手続
弁護士法人の従たる事務所
弁護士法人が支店に相当する「従たる事務所」を設置するケースは年々増えています。
しかし、会社と異なり、弁護士法人はその根拠法が弁護士法に限定されているため、登記手続・定款変更・常駐義務などで独特の論点が生じます。
実務の具体的な処理については文献がきわめて限られ、管轄法務局ごとの取扱いも微妙に異なるため、登記担当者にとって判断が難しい場面が多いのが実情です。
本稿では、司法書士として実際に取扱った事例や、登記実務で論点となりやすい点を中心に、弁護士法人の従たる事務所設置に必要なプロセスを体系的に整理します。
従たる事務所設置の基本的枠組
弁護士法人において支店に相当する拠点は、「従たる事務所」と位置づけられます。
会社における「支店設置登記」に近いものの、弁護士法人の場合は、弁護士法が優先するため、定款の扱い・社員の常駐・登記事項の内容が大きく異なります。
特に、従たる事務所の所在地は「法律事務所の所在地」として定款記載事項と密接に関係するため、単純な支店登記とは扱いが異なります。
定款変更が必要となる理由
弁護士法では、法律事務所の所在地が定款記載事項とされています。
従たる事務所を追加する場合も、一般に「法律事務所」との関係で定款変更が必要となるのが実務です。
定款変更の決議方法は、原則として総社員の同意。
ただし、定款に変更決議方法が定められている場合は、その方式に従います。
多くの弁護士法人の定款は、業務執行の定めを簡略にしているケースが多く、ここが実務上の悩ましい点です。
定款が曖昧な場合は、登記申請段階で疑義が生じやすいため、総社員同意で処理するのが最も安全です。
設置日・所在地の決定方法
従たる事務所の設置日は、定款変更とは別に決定する必要があります。
また、定款が最小行政区画(例:東京都千代田区)のみを記載している場合は、登記申請では番地まで必要となるため、別途所在地の詳細を決定します。
決定方法は定款の業務執行方法に従いますが、実務では総社員の同意により決定した旨を記載するのが最も無難です。
登記申請に必要となる書類
整理すると、必要書類は以下の構成になります。
・弁護士法人変更登記申請書
・定款変更の決定書面(総社員同意書 等)
・従たる事務所の設置日・所在地の決定書面
・代理申請の場合は登記委任状
なお、定款変更と設置場所決定の書面は一体化しても問題ありません。
登録免許税の取扱い(非課税)
弁護士法人の従たる事務所設置登記は、登録免許税法上の課税対象に該当しないため、非課税です。
「非課税である」との記載は実務で見落とされやすく、費用見積りで誤りが生じやすい点でもあります。
申請先の法務局と近時の運用変更
従前は、主たる事務所の管轄と従たる事務所の管轄の双方への申請が必要でしたが、法改正により主たる事務所の管轄法務局のみで足りる運用となっています。
インターネット記事や古い文献では、いまだに旧制度が記載されているため注意が必要です。
社員常駐義務と追加選任の要否(最重要論点)
弁護士法には、法律事務所に社員を常駐させる義務が明文で規定されています。
従たる事務所が地理的に離れている場合は、常駐社員を追加選任する必要が生じる可能性があります。
特に、社員1名の弁護士法人が新たに従たる事務所を設置するケースでは、追加社員を加入させる必要がほぼ必然となります。
この点は会社の支店設置と大きく異なるため、実務上もっとも確認・注意すべき論点です。
支配人類似制度は存在するか
会社法における支配人(会社法10条等)に相当する規定は、弁護士法には設けられていません。
組合等登記令では、一定の代理人を選任した場合の登記義務が定められていますが、弁護士法人はその対象となる根拠法に該当しないため、支配人登記を検討する必要は通常ありません。
従たる事務所の業務執行に関して「一切の裁判上・裁判外の行為」を行う権限を持つのは、あくまで代表社員です。
登記後に必要となる届出
定款変更を行った場合は、所属弁護士会への届出が必要です。
従たる事務所の設置は弁護士会の実務にも影響するため、登記完了後に忘れず手続を進める必要があります。
本コラムのまとめ
弁護士法人の従たる事務所設置は、会社の支店登記と似ているように見えますが、以下の点で実務上の論点が顕著です。
・法律事務所所在地が定款記載事項
・総社員同意で進めるのが最も安全
・社員の常駐義務により追加社員選任が必要となる場合がある
・支配人制度は基本的に想定されていない
・申請は主たる事務所の管轄のみに一本化
・登録免許税は非課税
登記そのものは比較的シンプルですが、定款変更の要否・社員常駐の扱い・弁護士会手続の三点が落とし穴になりやすいテーマです。
当事務所では、弁護士法人を含む各種士業法人の登記を多数取り扱っておりますので、従たる事務所の設置をご検討の場合は、ご相談いただければ最適な進め方をご提案いたします。
手続きのご依頼・ご相談
本日は、弁護士法人の従たる事務所設置と登記手続について解説しました。
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