ダブル公告による債権者保護手続の実務と留意点(会社法449条3項、940条ほか)
債権者保護手続の概要
会社が減資・準備金の減少・組織再編行為(合併等)を行う場合、債権者が不利益を受けるおそれがあるため、会社は一定期間内に異議を述べる機会を与えなければなりません。
このために行うのが、いわゆる「債権者保護手続」です(会社法449条、779条、789条、810条など)。
公告と並行して、知れている債権者への個別催告も必要とされるのが原則です。
ダブル公告とは
官報公告に加えて、定款で定めた他の方法(日刊紙または電子公告)によって公告を行うことで、各別催告を省略できるとする制度です(会社法449条3項ほか)。
このように、官報+日刊紙、または官報+電子公告という「二重公告」を行うことから、実務では「ダブル公告」と呼ばれています。
ただし、会社解散(会社法499条)や外国会社の廃業(会社法820条)に伴う公告では、ダブル公告をしても個別催告の省略はできません。
ダブル公告の実務上の利点と課題
| 観点 | 利点 | 課題 |
|---|---|---|
| 手続負担 | 債権者ごとの催告発送が不要。漏れのリスクを回避できる。 | 公告媒体が2種類になるため、手続スケジュールが複雑化。 |
| コスト | 郵送費が不要になるケースもある。 | 公告費用が約2倍。登記費用も増加する場合がある。 |
| 実務管理 | 公告漏れの懸念が少ない。 | 電子公告ではシステム障害時の中断リスクがある。 |
日刊紙公告と電子公告の選択
| 区分 | 日刊紙公告 | 電子公告 |
|---|---|---|
| 掲載方法 | 新聞社取次経由で掲載 | 自社サイト掲載+調査機関登録 |
| 掲載準備期間 | 掲載6~8営業日前申込が多い | 掲載4~5営業日前が目安 |
| メリット | 中断リスクがなく確実 | コストが低く、自社管理が容易 |
| デメリット | 掲載費用が高め | サーバートラブルによる公告中断の危険あり |
電子公告を採用する場合は、サーバー障害や保守作業による中断時の法的影響に特に注意が必要です。
公告が停止した場合には、会社法940条3項に基づき、中断の内容を付記して再公告する対応が求められます。
また、公告が有効と認められるには、
① 会社が善意無重過失または正当な理由があること
② 中断時間が公告期間の10分の1以内であること
の両方を満たす必要があります。
定款変更と公告方法の切替時期
ダブル公告を行うには、定款に日刊紙または電子公告を公告方法として明記する必要があります。
例
・日刊紙を採用する場合
「当会社の公告は、○○新聞に掲載して行う。」
・電子公告を採用する場合
「当会社の公告は、電子公告により行う。ただし、やむを得ない事由により電子公告を行うことができないときは、官報に掲載して行う。」
「官報又は○○新聞」といった選択的な記載は、債権者に不明確な負担を生じるため不可とされています。
登記実務上、公告方法を変更する際は、公告予定日の2~3週間前には株主総会決議・登記申請を完了しておくのが望ましいです。
登記研究905号(2023年7月号)でも、変更登記が未完了の状態で新公告方法による公告を行った場合、登記申請が受理されないとする見解が紹介されています。
どのような会社に向くか
| 類型 | 推奨公告方法 |
|---|---|
| 多数の債権者を有する大企業 | ダブル公告(効率重視) |
| 債権者が限定される小規模会社・SPC | 官報公告+個別催告 |
まとめと実務アドバイス
ダブル公告は、個別催告省略の実務的メリットがある一方、公告方法変更やシステム管理、公告費用といった新たな負担も伴います。
とくに電子公告を採用する場合は、サーバー保守体制やバックアップ対応まで含めた社内管理体制の整備が不可欠です。
公告方法変更登記のタイミングを誤ると、手続全体が後倒しになるおそれもあるため、登記官との事前照会や公告掲載スケジュール管理が実務上の要となります。
手続きのご依頼・ご相談
本日は、ダブル公告による債権者保護手続の実務と留意点について解説しました。
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