就任承諾書はいつ要るのか?議事録「援用」と実務運用の整理
役員就任登記と就任承諾書の省略
役員就任登記で就任承諾書の添付を省略できる条件(=議事録の援用)を解説いたします。
・「出席取締役」概念に照らした援用可否の典型パターン
・記名押印義務がない議事録をどう読むか
法務局対応のばらつきを踏まえた、実務上の統一ポリシーを解説いたします。
議事録を「就任承諾の証」として援用できる基本
就任承諾は口頭でも成立し得ますが、登記では就任を「証する書面」の添付が必要です。
次の三要件を満たす株主総会(または取締役会)議事録があれば、就任承諾書の添付を省略(援用)できます。
①当該者が会議に出席していること
②会議の席上で就任承諾の意思表示をしていること
③就任承諾した旨が議事録に記載されていること
※事前に内諾があっても欠席なら援用不可。
※「議長報告として承諾があった旨の記載」だけでは援用不可(あくまで議長報告にすぎないため)。
「出席取締役」概念が左右する援用可否
会社法施行後は、株主総会議事録に出席取締役の氏名記載が必要(記名押印義務は廃止)。
ここでいう「出席取締役」とは、総会中に一瞬でも取締役であった者を指します。
この点が、援用可否の分岐になります。
援用可否の早見表
| 場面 | 出席取締役に当たるか | 議事録援用 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 定時総会で改選:新任者(総会終結と同時就任) | 当たらない | 可 | 議事録に「出席し、その場で就任承諾」と明確に。 |
| 期限付選任(例:5/1付就任を4/10に決議) | 当たらない | 可 | 就任日は将来でも、その場の承諾を記載。 |
| 補欠・増員の新任(臨時総会など) | 当たらない | 可 | 同上。 |
| 再任(重任)者 | 場面により当たり得る | 可 | 取締役会に続けて出席し、議事録に記名押印があれば承諾書省略の目安。 |
| 欠席・議長報告のみ | — | 不可 | 承諾書が必要。 |
記名押印がない議事録をどう扱うか
・会社法施行後は、株主総会議事録の出席取締役の氏名記載で出欠を把握します。
・末尾の記名押印がなくても、上記三要件(出席・その場の承諾・記載)が整えば援用は可能。
・もっとも、本人確認の観点から、実務では代表者の押印(できれば実印)を求める運用もあります。
・監査役は取締役会へ出席義務のない場合が多く、就任承諾書を別途徴求するのが無難とされています(実務方針)。
法務局の見解と実務の温度差
・一部法務局では、議事録の文言(出席し、その場で承諾があったこと)をより明確に書くよう求める傾向があるとの言及があります。
・援用自体の考え方は従来から大きくは変わっていませんが、扱いの濃淡があるのは事実。
・先例の明確化なく、局ごとに運用が揺れることには疑問が示されています。
実務ポリシーと社内運用の統一
原則
・新規就任:就任承諾書を徴求
・重任(再任):就任承諾書は不要(ただし、直後の取締役会議事録に本人の記名押印がある等、意思確認ができること)
例外の運用
・就任承諾書を失念した、今回は議事録で足りる事情がある等は臨機応変に援用を検討。
・監査役など会議出席が期待できない役職は、原則として就任承諾書を依頼。
この方針により、クライアントへの説明を一律化しつつ、局面に応じて援用で省力化も可能にするという整理です。
司法書士の注意義務についての位置づけ
・議事録に記名押印があっても本人の真否を完全に担保はできない(実印であっても印鑑証明がなければ断定困難)。
・だからといって、株主総会への同席確認や本人直問まで求められるものではない——というスタンス。
・最低限、本人意思がうかがえる書面(承諾書、あるいは議事録への本人記名押印等)を確保する実務が妥当とされています。
本コラムのまとめ
・援用の三要件(出席・その場の承諾・議事録記載)を満たせば、就任承諾書は省略可。
・「出席取締役」概念の理解が援用可否の鍵。改選・期限付・補欠等の新任は出席取締役に当たらないが、援用は可能。
・記名押印義務がない時代でも、文言の明確化と本人意思の痕跡(議事録への記名押印等)を重視。
・取扱いの濃淡があるため、社内ポリシーは「新規=要」「重任=原則不要」で統一し、監査役は原則要として運用するのがわかりやすい。
以上、連載の趣旨(実務の悩ましさと運用の統一)に沿って、就任承諾書の「要・不要」を整理しました。
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本日は、就任承諾書はいつ要るのか?議事録「援用」と実務運用の整理について解説しました。
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