特例有限会社の「代表取締役の氏名抹消登記」をどう扱うか?
定款の書きぶり・員数欠缺・任期満了・買収後の再設計まで実務整理
特例有限会社の登記は、株式会社とは異なる独特の体系を維持しており、代表取締役の「氏名抹消登記」が登場することがあります。
同じように代表者が交代しても、株式会社と特例有限会社とでは登記上の処理が異なるため、実務上しばしば混乱を招きます。
本稿では、特例有限会社特有の登記事項構造と、代表取締役の氏名抹消登記が必要となる・不要となる場合の判断基準を整理します。
特例有限会社ではなぜ「氏名抹消登記」が存在するのか
特例有限会社は会社法施行時の経過措置により存続している旧有限会社であり、株式会社とは登記事項の構造が異なります。
・取締役全員が代表権を有するときは、代表取締役の氏名は登記事項ではない。
・一方、代表しない取締役がいるときには、代表取締役の氏名が登記事項となる。
このため、登記簿上「代表取締役A」と記載されていた会社で、後日、全取締役が代表権を持つ状態になった場合、Aの代表取締役の氏名を登記から抹消する必要が生じます。
つまり、「権限を失ったから抹消する」のではなく、「登記事項でなくなったから抹消する」という性質の登記です。
登記の要否を左右するのは「定款の書きぶり」
今回のケースのように、定款に
「取締役は2名とし、代表取締役はBとする」
と個人名を明記している場合は、構造がやや複雑になります。
1.取締役Aが死亡すると、定款上は取締役が員数欠缺状態になります。
2.株主総会を開くためには過半数の取締役の同意が必要ですが、1名欠けており、実務的に困難。
3.さらに代表取締役Bが定款で定められているため、定款変更をしなければ役員構成を動かせないという問題が生じます。
このような状況では、定款変更と役員選任を同一の書面決議で処理することが一般的です。
その際、代表取締役Bの氏名抹消登記を要するかが争点となります。
実務上の整理(法務局の見解)
実際の照会結果では、
「代表取締役Bの氏名抹消は不要。取締役Bの任期満了に伴う代表取締役Bの退任登記を行う」
という取り扱いが示されています。
つまり、
・代表取締役の氏名抹消登記はあくまで便宜的な登記であり、
・任期満了・辞任・死亡等の退任登記で足りる場合には、あえて抹消登記をしない。
要するに、「便宜登記を過度に使わず、整合性が取れるなら退任登記で完結させる」という実務判断です。
任期満了がない場合の扱い
特例有限会社は原則として取締役の任期がありません。
したがって任期満了を原因とする退任が起こらない場合、代表体制を変更する際には次のいずれかで処理します。
・定款変更の時点で「代表取締役の氏名抹消登記」を行う(定款で代表者を定めている場合)。
・または、定款変更と新代表取締役の就任登記を同時に行い、代表の交代として退任登記でまとめる。
いずれも管轄法務局の運用に左右されるため、事前に照会して確認するのが安全です。
招集と決議の注意点
定款上の取締役員数が2名の場合、株主総会を招集するには取締役2名の一致が必要です。
1名が死亡していると、取締役会の招集決定ができないため、
・仮取締役の選任、または
・株主による書面決議(株主提案方式)
のいずれかで手続きを補う必要があります。
本件では株主全員の同意により書面決議で処理し、実務上も支障なく対応可能です。
実務上のチェックポイント
チェック項目 | 内容 |
---|---|
① 定款確認 | 「代表取締役の氏名を定めているか」「全員代表か」を確認 |
② 任期条項 | 任期満了の有無で「退任」か「抹消」かを選別 |
③ 決議方法 | 仮取締役・株主提案決議など、員数欠缺時の招集手段を検討 |
④ 登記原因 | 任期満了・辞任・死亡・定款変更のいずれかに整理 |
⑤ 管轄確認 | 登記官の判断に差異あり。疑義は事前照会で解消 |
本コラムのまとめ
・「代表取締役の氏名抹消登記」は、代表権喪失ではなく登記事項から外すための便宜登記。
・任期満了などの明確な退任原因がある場合は、抹消登記を省略して退任登記で足りる。
・定款の規定内容によっては、定款変更の効力発生日に「氏名抹消」が必要な場合もある。
・管轄法務局の取扱い差が大きいため、判断に迷う場合は必ず事前照会を行う。
・株主提案による書面決議を活用すれば、取締役が員数欠けしていても円滑に株主総会決議を成立させられる。
特例有限会社の登記実務は、条文よりも「旧有限会社法時代の運用」を引きずる領域が多く、機械的に株式会社の登記手続きを当てはめると誤りやすい分野です。
代表取締役の「氏名抹消」もその一つであり、便宜的な登記であることを踏まえ、整合性の取れた一つの登記原因で完結させることが最も安全な対応といえるでしょう。
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本日は、特例有限会社の「代表取締役の氏名抹消登記」をどう扱うか?について解説いたしました。
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