特例有限会社における代表取締役の氏名抹消登記の要否、定款の定め方・実質論/形式論・具体事例の整理
特例有限会社の役員変更
特例有限会社において、役員の死亡や辞任により役員構成が変動した場合、「代表取締役の氏名抹消登記は必要か」という実務上の疑問が生じます。
このテーマは、
・定款の定め方(各自代表か、互選代表か)
・登記実務の考え方(実質論か形式論か)
・辞任や死亡が生じたときの具体的処理
といった複数の要素が絡み合うため、判断が難しい場面が多いのが実情です。
本稿では、これらの論点を整理し、登記実務での取扱いをわかりやすくまとめます。
本コラムの要点・整理
・登記要否は「定款の定め」と「登記申請時点での役員構成」によって判断される。
・代表権のない取締役の有無が基準となる。
実質論:代表権のない取締役が一旦いなくなった時点で抹消登記が必要
形式論:最終的に代表権のない取締役が存在するのであれば抹消登記は不要
・現在の実務は、形式論を採用してよいとされている。
定款パターンごとの整理
パターン | 定款の趣旨 | 代表権の基本像 |
---|---|---|
1 | 取締役は1名以上。2名以上のときは株主総会で代表取締役を定めることができる | 各自代表が典型。選定しなければ全員に代表権 |
2 | 取締役は2名以上。株主総会で代表取締役1名を選定 | 常に1名に代表権を集中 |
3 | 取締役は1名以上。2名以上のときは取締役の互選で代表取締役を定めることができる | 原則は各自代表だが、互選で選ばれた者のみ代表権 |
4 | 取締役は2名以上。互選で代表取締役1名を選定 | 互選で初めて代表権が付与される |
実質論と形式論
実質論
代表権のない取締役が存在しなくなった時点で氏名抹消登記が必要。
形式論
一時的に不在であっても、申請時点で最終的に代表権のない取締役が存在すれば、抹消登記は不要。
判断フロー
1.定款の定めにより、代表しない取締役が存在し得るか?
YES → 抹消登記が必要となり得る
NO → 原則として不要
2.登記申請時点で代表しない取締役がいるか?
YES → 抹消登記は不要(形式論)
NO → 一旦でも不在の時期があれば抹消登記が必要(実質論)
具体事例の整理
事例1
・会社状況:取締役ABC/代表取締役AB
・定款:取締役2名以上・互選代表可(パターン3)
・事象:5月1日C死亡 → 数か月後にBが代表取締役のみ辞任
整理
・C死亡登記は可能
・B辞任登記も可能
・この場合、代表取締役の氏名抹消登記は
実質論では必要
形式論では不要
→ 実務は形式論を採用し、抹消登記を省略できると考えられる。
事例2(原因日付)
・取締役Bが9月30日付で辞任
・代表取締役Aの氏名抹消原因日を10月1日で申請 → 補正指示
・実務上の取扱い:辞任日と同日を原因日とする必要あり
互選代表と各自代表の違い
各自代表
・就任時点で全員に代表権
・代表取締役の就任承諾書は不要
・「辞任」は実際には株主総会の承認により代表権を剝奪する決議で対応
互選代表
・互選で選定された者のみ代表権
・就任承諾書が必要
・代表取締役のみの辞任が可能
実務的ポイント
・現在の運用は形式論に基づき、最終的に代表権を持たない取締役が存在するかどうかで判断する。
・登記時期や登記事項の整合性によって、決議内容の書き方や登記申請の仕方に違和感が生じる場合がある。
・互選代表制では「代表取締役の辞任」という表現が可能だが、登記事項や補正の要否には注意が必要である。
手続きのご依頼・ご相談
本日は、特例有限会社における代表取締役の氏名抹消登記の要否、定款の定め方・実質論/形式論・具体事例の整理を解説いたしました。
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