吸収合併

取締役の決定による自己株式消却の可否とは?会社法の条文・先例・株主総会との関係を整理

合併に伴う自己株式の消却

吸収合併などに伴って会社が自己株式を取得した場合、その処理として「自己株式の消却」が問題となります。
このとき、決定機関は株主総会か、それとも取締役(または取締役会)か? という点について、会社法の条文と登記実務の運用にズレがあり、現場で混乱が生じやすいのが実情です。

本稿では、
・会社法178条の条文内容
・民商第782号通達(平成18年3月31日)の趣旨
・株主総会決議と取締役決定の関係

を整理し、実務で注意すべき論点を解説します。

会社法の規定

会社法178条は以下のように規定しています。

1項:株式会社は自己株式を消却できる。その際には、消却する株式数(種類株式の場合は種類ごとの数)を定めなければならない。
2項:取締役会設置会社では、この決定は取締役会の決議によらなければならない。

→ 条文上は「株主総会では決めてはいけない」とは書かれていません。

先例の書きぶり

平成18年3月31日民商第782号通達には、次のように記載されています。

「会社は、取締役の決定(取締役会設置会社にあっては取締役会の決議)により、自己株式を消却することができる。」

これにより「自己株式消却は取締役の決定に限られる」との理解が広がりました。

解釈の分かれ目

・一方の見解:「通達がある以上、取締役決定に限られる」と解する。
・他方の見解:「条文が株主総会決議を否定していない以上、株主総会でも決議できる。通達は『取締役決定でもよい』ことを示すにすぎない」と解する。

特に取締役会非設置会社では、株主総会が万能機関としての性質を持つため、株主総会決議で処理することに問題はないと考える実務家も多いです。

類似の例

「本店移転の決定」も同様の書きぶりですが、実務では株主総会決議で行うケースが一般的にあります。
これと同じく、自己株式の消却についても株主総会決議で支障はないとの解釈が成り立ちます。

実務上の留意点

・登記の審査段階では、担当官によって「取締役決定でなければならない」と指摘されることがある。
・ただし、全取締役が株主総会に出席している場合など、補正対象とはされない場合もある。
・実務処理にあたっては、通達文言の解釈と、条文上の根拠とのバランスを理解して対応することが求められる。

結論としては、補正リスクがある以上、登記申請時には「取締役の決定」による書式を整えておくのが無難ですが、法理的には「株主総会決議も有効である」可能性があるということになります。

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本日は、取締役の決定による自己株式消却の可否とは?会社法の条文・先例・株主総会との関係を整理いたしました。
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本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

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